Illuha「Akari」~緩やかに広がる静謐/衝動を伴った心地よい余韻を持つセカンド作

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

3月末からStephan Mathieu、Federico Durand、そしてTaylor Deupreeによる、東京・鎌倉・京都を巡る、日本ツアーがあったばかりなんですが、そのツアーを仕切っていたのが、OpitopeやMelodiaとしても活躍する伊達伯欣さんを中心とした、Kualauk Tableでした。当然、このツアーでも、Opitope、Melodia、そしてTomoyoshi Dateとしてのパフォーマンスもあったのですが、もうひとつ、彼の重要なプロジェクトが、Corey FullerとのILLUHA(イルハ)です。

12kより、2011年に発売された「Shizuku(滴)」が彼らの最初の作品なんですが、雑誌WIREに掲載されるなど、発売後1ヶ月で完売、というアンビエント~ドローンのジャンルでは異例の高評価を得ます。この作品は、アメリカ北部ベリングハムにある古教会で、その教会の響きをテーマに録音し、様々なアコースティック楽器のサウンドを元に4年がかりで編集し仕上げた、とても優雅で美しいエレクトロ・アコースティック~モダン・クラシカルが見事に調和した作品で、短歌の歌人、一ノ関忠人が朗読で参加したトラック、”Seiya”は、一ノ関さんの言葉のたたずまいもさることながら、人間の声じゃなくてはるか時空を超えて精神に聴こえてくるような声?を導き出したILLUHAのため息もののサウンドスケープも素晴らしいものでした。

その後、2013年に、ライブ盤アルバム「Interstices」をリリースします。ファースト作にはない、どこか全体に流れるゆったりとした間と、ライヴならではの、2人によるサウンド構築プロセスによるマジックがリアルに伝わってきます。ライヴのリアリティーは伝わってくるけど、ライヴならではのサウンドのきめ細やかさに欠けるところは皆無。質の高いパフォーマンスで定評のある彼ら互いの息遣いは、その後につづく「Akari」に形になって結実してゆくわけですね~。ちなみに、筆者は、「Stephan Mathieu + Taylor Deupree + Federico Durand Japan tour 2014」での、京都きんせ旅館で行われた、2日目を見ることができたのですが、その時は、Taylor DeupreeとILLUHAによるコラボでしたが、その日の出演者の中で、最も、ゆったりと刺激的で気品に満ちた空間を生み出していました(あくまで私見です)。

そして「Stephan Mathieu + Taylor Deupree + Federico Durand Japan tour 2014」にあわせ、リリースされた、ILLUHAのセカンド作が「Akari(あかり)」です。「Shizuku」リリース後の2度に渡るジャパンツアーと米西海岸ツアーの経験を経て、よりライヴにおける音楽を創造するプロセスを探求した形を、この作品で聴かせてくれています。

2012年から2013年の冬まで、フィッシュマンズやバッファロードーターのミックス、エンジニアで知られる、zAk氏所有のST-ROBOスタジオで録音された本作は、一切のラップトップを用いず、ピアノ、アコーステックギターアップライトベース、ヴィブラフォン、パーカッションなどのアコーステック楽器に、ローズやエレクトリックピアノ、アナログシンセなどを用い、Corey Fullerと伊達さんとの親密なやりとりから緩やかに繰り出される、繊細なテクスチャーひとつひとつの響きが、静謐さと、衝動を伴った心地よい緊張感を持って、豊かなサウンドスケープを生み出してゆく。

1曲1曲は10分を超えるものがほとんどなんですが、フィジカルな演奏がもつ、音の隙間から垣間見える微細な気配、表情の変化が聴く者を飽きさせない。1曲目「Diagrams Of The Physical Interpretation Of Resonance」は、アコーステックギターのハーモニクス音でスタートする。つま弾くギターというよりは、ギターに触れている感触も含め、巧みにちりばめられ、それらの響きに反応するように、様々なテクスチャーが緩やかに共鳴し、空気に溶けてゆく。ただコントラストの比重はギターとピアノに絞られているので、とても聴きやすく、清々しい気品を帯びている。

2曲目「Vertical Staves Of Line Drawings And Pointillism」は、細かな物音を聴かせながら、静寂の重さを表現するかのようなドローンが聴き手をどっぷりと覆う。そんな重苦しい雰囲気の中、プリペアードピアノの美しくの響きと、ノイズのようなインダストリアルな響きが、交互に触れあい、漆黒のサウンドの中に独特の緊張感を生み出している。

3曲目「The Relationship Of Gravity To The Persistence Of Sound」は、2曲目の緊張感からゆっくりと解き放ってくれるかのような、ある種牧歌的な雰囲気すら感じさせるもの。1曲目に通じる、アコーステックサウンドを用い、それぞれの音が、ふわりと広がってゆく。何かが主となって明確なメロディーを奏でているわけではないのに、このサウンドの持つあたたかさ、甘酸っぱさは、感動的すらあるのです。

4曲目「Structures Based on the Plasticity of Sphere Surface Tension」は、フィールドレコーディングと、流麗なエレピのような音色とアコーステックギターを中心に、周りの景色がスローに見えてしまうような幻想的な情景を生み出してゆく。

そして最後の5曲目「Requiem For Relative Hyperbolas Of Amplified And Decaying Waveforms」優しくも慈悲深いピアノのメロディーに、アナログシンセを含む、シンフォニックなサウンドが加わり、それらが徐々に増幅され激しく轟く。最後まで聴き終えた後は、ただただこの作品の、深い余韻と、のどかな田舎の静寂とともにまったりしてしまいました。今、奈良の片田舎でこの作品を聴いているんですが、都会ではどのような余韻になるんだろう?

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■ アーティスト:Illuha
■ タイトル:Akari
■ フォーマット:CD
■ レーベル:12k
■ 品番:12k1080
■ ジャンル:アンビエント
■ リリース年:2014年

01. Diagrams Of The Physical Interpretation Of Resonance
02. Vertical Staves Of Line Drawings And Pointillism
03. The Relationship Of Gravity To The Persistence Of Sound
04. Structures Based On The Plasticity Of Sphere Surface Tension
05. Requiem For Relative Hyperbolas Of Amplified And Decaying Waveforms

ちなみに、この作品をお買い上げ頂くと、オーダー先着特典で、6枚のポストカードが付いて来ます。このポストカードのドローイングは、Corey Fullerの息子さんだそう。

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2014年04月27日 | Posted in 音楽レビュー | タグ: , , , Comments Closed 

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