Aries Mond「Cut Off」(IIKKI)
Eilean Rec.からもリリースしている、フランス南部のピレネーに住む音楽家、Boris Billierのプロジェクト、Aries Mondによる2枚目となる作品「Cut Off」は、ヴィジュアルアーティストと、音楽家とのコラボレーションプロジェクトをリリースする、フランスのIIKKIよりリリース。ロシアのドキュメンタリー写真家であり、ソーシャルワーカー、ボランティア、Pskov出身のジャーナリストという多様な側面を持つ、Dmitri Markovとの共演作です。
iPhoneで撮影された日常生活を切り取った写真の背景には、ロシアの過酷な環境が横たわりながらも、ここで見せてくれる、独特の視点で切り取った数々の写真からは、ただ社会問題を記録するだけでない、ドミトリマルコフの映し出す、ロシアの平和な瞬間が映し出されていて、それがただただメランコリックな気分が浮かび上がってくる。
一方、まるで自然の機微をピアノにしたためたような、静かに響く繊細なサウンドが魅力のAries Mondのサウンド。「Cut Off」も、2018年にEilean Rec.からリリースされている「Come On Let’s Wait」と路線はほぼ変わらない印象なのですが、遥かに本作の聞き応えには満足する内容で、本当に素晴らしい。
ピアノのフレーズがループし続け、その音の隙間、背景に様々なノイズ、フィールドレコーディングが入り込んでくる。まるで音と音の隙間がファインダーとなって、ドミトリマルコフの映し出す世界を伝えているような…。柔かなピアノの旋律と、夢と現実の狭間を行き交うエレクトロニクスのハーモニーが不安定にまどろむ美しさは、ただただリスナーに感傷を呼び起こす。彼の音創りで耳についた、人の言葉を発する時の呼吸や息遣いなどをカットアップしているところも本作でも聴くことができますが、どのトラックも、フィールドレコーディングを効果的に配置し、エフェクトなどで処理したりと、かなり繊細で創造性あふれる音つくりを聴くことができます。
個人的には、IIKKIの試みである、異業種のアーティストコラボレーションは、Aries Mondの表現に大きな影響を与えていると言って欲しいくらい、人肌の温もりが感じられる表現の深みは、本当に素晴らしい。アンビエント作品というわけではなく、ドキュメンタリー映画のサウンドトラッックのようにも感じられる1枚です。かなりおすすめ。
01. Spark
02. Fixer
03. Cracks
04. Cut Off
05. Iodine
06. Curl
07. Dew
08. Ink
09. Shift
10. Curve
11. Rustle