Christina Vantzou『No.4』(Kranky)
不断に変化を遂げながらも、たえざる途上にある才気が凝縮された作品
ベルギー在住の女性作曲家Christina Vantzouの4作目となるアルバムがkrankyからリリース。もうStars of the LidのAdam WiltzieとのThe Dead Texanのメンバーであったことの方が知られていないかも…というくらい、ソロ作品をリリースするたびに評価は高まるばかり。
彼女は、アメリカでも難易度の高い、メリーランドインスティチュートカレッジオブアートで学んだ後、2004年に、Adam WiltzieとのオーディオビジュアルプロジェクトThe Dead Texanでアルバムをkrankyから1枚リリースします。その後、このプロジェクトでは作品をリリースしないまま、2011年に、ソロ作「No.1」がリリースされます。Stars of the Lidばりの、何年も時間と労力をかけててじっくりと楽曲を作り込むスタイルで、その後、録音やミックスといった作業でアルバムは作られていきます。ファースト「No.1」、セカンド「No.2」は、サンフランシスコのMagik*Magik OrchestraのMinna Choiとのコラボーレーションや、Adam Wiltzieが参加し、The Dead Texanに近いシンフォニックなサウンドとともに、重層的な響きを持つ、雄大さと儚さに加え、彼女の持つ細やかで大胆な神秘性が、多くのアンビエント作品にはない魅力になっている。
オーケストラを使った「no.3」までは、弦楽器、管楽器、金管楽器、そして聖歌隊からなるアンサンブルによって、作品をリリースするたびに、秩序をもったカオスの美しさのように深く、メディテーティブな魅力に惹きつけられる。特に、Adam Wiltzieから離れた「No.3」は、オーケストラを組み合わせたアンビエントスタイルから、より彼女の個性をサウンドから感じれるようになった瞑想的アンビエントサウンドで、タンジェリンドリームやピンク・フロイドのようなイマジネーションを喚起させ、彼女の底辺にあるヴィジュアルアートとの関係性が作品の中でより露わになったものと言えます。「No.2」が、ポストクラシカル作品に、ちょっとよくあるパターンの平凡で眠たくなるようなものだったので、この「No.3」での飛躍は、さらに次の作品に期待を抱かせるものでした。
『No.4』は、制作に2年費やしたという。『No.3』も素晴らしかったけど、本作は、彼女の最高作とも言うべき内容かも。パリの芸術家、ジン・テイラーの壁画作品にあわせて40分のライブパフォーマンスで共演したJohn Also Bennett(Forma)や、Dirty Projectorsの元メンバーで、AnticonからリリースしているDeradoorian、ACMEのメンバーClarice Jensen、RADIOHEAD『AMNESIAC』を丸ごとカヴァーした作品が話題にもなった、ベルギーのEcho Collectiveのメンバーたちが参加していて、彼らとのコンセプチャルなコラボレーションです。
ピアノ、ハープ、ヴィブラフォン、声、ストリングス、マリンバ、シンセサイザー、ゴング、ベルなどによるエレガントで瞑想的なテクスチャーに、彼女のこれまでの音楽性から極端に変わることはないのですが、アンビエント〜クラシック〜ミニマリズムを折衷させた、彼女独自のスタイルが見事なバランスで構成されており、不協和音を織り成しながらも、美しいピアノの旋律や、繊細で可愛いベルの音などを挟み込み、内面では混ざり合い、互いに結びあいながら、そこから派生する多様さの、大きな、神秘的な目に見えない一つの流れとなっている。ダークで不穏なシンフォニーもこの作品においては素直に美しいと感じてしまうし、これまで以上に、彼女のサウンドに親しみを覚える。幻覚のような奇妙さは、やがて陶酔的な美しさとなり、不断に変化を遂げながらも、たえざる途上にある彼女の才気が一つに凝縮された作品とも言える素晴らしさです。
01. Glissando for Bodies and Machines in Space
02. Percussion in Nonspace
03. At Dawn
04. Doorway
05. Some Limited and Waning Memory
06. No.4 String Quartet
07. Staircases
08. Sound House
09. Lava
10. Garden of Forking Paths
11. Remote Polyphony