Cicada(シカーダ)『White Forest』(flau)
人と自然との繋がり、そして深い調和を導き出そうとする美しい調べ
台湾の室内楽アンサンブル、Cicada(シカーダ)の最新作『White Forest』がflauより、リリースされました。社会的テーマを軸にしながらも、自然に対する純粋な感謝の思い、愁いが、ポストクラシカルという枠を超えて親しみある旋律を届けてくれるグループです。
そんな彼等の最新作『White Forest』は、前作「Ocean」からの続編的内容となる、クジラ、イルカ、サンゴ礁、ウミガメ、都市の猫、山々の鳥などの動物に捧げられていて、人の影響によって生じる、海洋や動物との関わりを、Cicadaの豊かなメロディーとともに届けてくれます。もともと、flauよりリリースされた「Ocean」は、「Coastland」と「Light Shining Through the Sea」の2作品から選曲された楽曲に、リミックスとリマスタリングが施され、再構成された作品なのですが、その後リリースされた、「Farewell」は、初期作をまとめたコンピレーション作であるものの、新メンバーとと共にリアレンジ・再録音に取り組んでおり、新たなCicadaの種が蒔かれた作品とも言えます。
ピアノの軽やかなリズムでスタートする、”Dolphins Leap”から、序盤3曲の終盤頃までは、自然界の中でたくさんの生物が共生する美しい風景〜生態系を描きだしていて、ピアノとヴァイオリン、チェロ、ギターの弦楽器それぞれが、創造に徹しつつ、直感と各自の約束事が、暗黙の了解のように、親しみやすいCicada独特の表現を実現させていて、これまでの作品以上に、豊かで美しい旋律にうっとりしてしまいます。
その一方、”White Forest”終盤から”Used to be Home””Swimming in the Plastic Ocean”と続く曲では、人と自然の関わりについて、長年問題となっている、温暖化によるサンゴの「白化現象」や、洋上風力発電で懸念されている、水中での騒音によるイルカへの影響を取り上げ、憂いを持った弦楽器の響き、パーカッシヴなリズムでの演奏を織り交ぜ、現実に起こっている問題に背を向けて、人が豊かになることへの矛盾を、多彩なアレンジで映し出していて、楽曲そのものは、暗いものだけとせず、叙景のような美しさを聴かせてくれます。特に、”Used to be Home”では、彼等の成長がリアルに感じることでしょう。
作品全体を通して改めて感じ入ったのは、Cicadaには、アコーステックギターが、すごく重要な役割を担っているということ。厳格なイメージを持ってしまうクラシカルな音楽に、柔らかで牧歌的なムードを与えていて、そこがCicadaが他のポストクラシカルを演奏する音楽家との違いであり、彼らの魅力の一つにもなっている。今作でも、重苦しいテーマが中盤2曲づつくのですが、その後、ふと柔らかなアコーステックギターの音色が聞こえてくる”Whale Family”が始まった瞬間なんとも言えない穏やかな心持ちにさせてくれますし、前後の楽曲の魅力もより引き立たせている。
より深い表現を獲得したCicadaの奏でる『White Forest』は、ロマンチックな要素と、現代の抱える問題をテーマを浮き彫りにしながらも、人と自然との繋がり、そして深い調和を導き出そうとする彼らの思いが、さわやかさに満ちた音楽となって心を潤してくれる。
01. Dolphins Leap
02. Fly
03. White Forest
04. Used to be Home
05. Swimming in the Plastic Ocean
06. Whale Family
07. The Stray Cat in Zhuwei