ここ数年、時間が経つのが早いな〜と、毎年ごとくぼやいているような気がするけど、アルゼンチン人アーティストFederico Durandが、2014年に、Taylor Deupree、Stephan Mathieuと共に来日したのがつい最近のような気がしたんですが、もう2年も経つんですよね。日本のドローン/アンビエントミュージックシーンを代表するアーティストとの共演も含め、Federico Durandにとってもこの来日期間中、様々なお土産を携えて帰国したことだと思います。
今回、12kからリリースされた「A Través Del Espejo」は、この日本でのツアー中、Taylor Deupreeとの交流を深めた流れでリリースされたものだし(実際これまでFederico Durandの作品をリリースしていなかった、と言うのも不思議な感じもしますが)、作品中、”El grillo de nácar (The cricket of nacre)”という曲では、hofli(Takashi Tuda)とのライヴセッションの音源が使われ、この作品の中にも日本でのツアー中の記憶の断片がちりばめられているような気がしました。
さて実際に音源の方は、と言いますと、これまでの、Federico Durand作品から伝わる、ノスタルジックな美しさ、人肌の温もりを覚えるような穏やかで浮遊するサウンドは変わらず、詩情豊かに聴かせる彼の調べは、期待を裏切ることはありません。スペイン語で”鏡を通して”という意味の本作『A Través Del Espejo』は、合わせ鏡をした時に見た、視覚のループ感や無限性にインスパイアされて制作されています。オカルト的なネタも多い、合わせ鏡ですが、この作品では、あまりネガティヴな意味合いではなく、現実を映し出しているにもかかわらず、鏡同士の反射によって生み出される、吸い込まれるような幻想的美しさを、ピアノ、リラ(ライアー)、おもちゃ、ベル、エフェクトなど、様々なアイテムを用い、それらのサウンドの断片をカセットレコーダーなどを使いながら、有機的に組み合わせ、生み出しています。
「A Través Del Espejo」でもそうだし、これまでの作品にしても、Federico Durandはきっと、現実世界から夢の入り口を見つけることのできる人なんだろうな、と思う。そのきっかけはいろいろだろうし、今回は、合わせ鏡だったけど、今後も、現実世界でのある瞬間に、彼が自身のメロディーを生み出す夢への入り口がいくつもあるのだろうと思ってしまう。そこでは、いろんな制約から解放され、赴くまま、まるで工作に没頭するかのような雰囲気で、やさしく素朴な人柄、創造性が織り込まれた、いろいろなループや、様々なレコーディングを切り貼りしながら、天上のサウンドを生み出しているFederico Durandがいるのだろう。
作品中、ゆらゆらと揺らめくサウンドに浸っていると、突然、赤ちゃんの泣き声、そして和やかに団欒する親子の会話が聞こえてくる。もちろんそこにもさりげなく、弦楽器の旋律を忍ばせているのですが、なんとなくムードだけのフィールドレコーディングではなくって、そのお母さんと小さな娘とのやり取りがあり、傍で生まれたばかりの赤ちゃんがいて…といったほのぼのとした情景を想像してしまったのですが、そこから、自然と滲み出てくる、尊さみたいなものが伝わってきて、なんとなくですが、こういった感情を大切に持っていたいなぁ〜と思いながら、ほんわかしてしまったのでした。
■Track List
01.Mirador en la montaña (Viewpoint in the mountain)
02.Teatro de sombras (Shadow play)
03.El jardín encantado (The enchanted garden)
04.Linternas junto a la laguna (Lanterns beside the lake)
05.Diorama (Diorama)
06.El grillo de nácar (The cricket of nacre)
07.Canción de la Vía Láctea (Milky Way song)
08.Hora de dormir (Time to sleep)
09.Recuerdos en Super 8 (Memories on Super 8)
10.A través del espejo (Through the mirror)