Gareth Dickson「Orwell Court」〜幻想的な世界にいつまでも浸りたくなる、繊細なギターとうたの深い残響
グラスゴーのギタリスト/シンガー・ソングライターGareth Dickson(ガレス・ディクソン)の、12kより2012年リリースの『A Quite A Way Away』以来、4年ぶりとなる最新作「Orwell Court」がリリースされました(国内はLirico、海外は12kより)。日本にも何度か来日しているので、ご存知の方も多いかと思います。
英国の伝説的フォークシンガー、ヴァシュティ・バニヤンの復活の際には、ジョー・マンゴーと共に、ライヴメンバーとして参加、その後の作品「Heartleap」にもギターで参加するなど、ヴァシュティ・バニヤンの信頼厚いギタリストとして知られるところではあるのですが、他にも、フアナ・モリーナの2008年作「Un Día」やライヴにも参加している実績もあります。
ニック・ドレイクのトリビュート・プロジェクト「Nicked Drake」としてカヴァーソング集「Wraiths」を出しているだけあって、ニック・ドレイクを知っている人だったら、間違いなく影響を受けていることがわかるヴォーカルに、トラディショナルなフォークスタイルながらも、ディレイやリヴァーヴなど、空間を彩るエフェクトを用いた、繊細なギターの演奏とが生み出す、深い残響。そんなところからも、フォークスタイルのアーティストとしては、珍しく、テイラー・デュプリー主宰のアンビエント/電子音楽レーベル12Kからリリースされていて(12kのリリースアーティストの中でも唯一のシンガーソングタイターアーティスト)、彼の歌を含めた音楽の持つ魅力は、ミニマル〜アンビエント方面まで注目をされています。
ギターの爪弾く音色がおだやかに広がり、じわじわと幻想的な風景を生み出してゆく…。寡黙な歌がそのサウンドに放たれてはやがて霧のように漂い風景に溶け込んでゆく。これまでの作品にも一貫して流れるGareth Dicksonの神秘性と静謐さは、この最新作「Orwell Court」で、より成熟した形で示されたのではないでしょうか。
ヴァシュティ・バニヤンが参加した、”Two Halfs”で始まる本作。これまで以上に透明感と艶があるギターの響きに、夢へと誘うヴァシュティ・バニヤンのハーモニーがたまらなく心地よい。そしてガレス・ディクソンの歌は、心の同情を誘ったり虚勢も憐憫も強要もせず、朴訥とした佇まいで、サウンドと同列に位置しているような気がする。ライヴの定番曲で、同郷のCeline Brooksとのデュエットを聴かせる”The Big Lie”や、彼の歌とアコーステックギターが見事なまでに溶け合った”The Hinge Of The Year”を聴いていると、メランコリーに彩られた世界とは違った、透き通るような美しさにしばしうっとりと聴き入ってしまう。ジョイ・ディヴィジョンの名曲「Atmosphere」も含め、どの曲も4分半から5分以上の長さのものばかりなのに、あっという間に「Orwell Court」のひと時は過ぎ去ってゆく。
夜が深くなり、人の営みが消え静寂に包まれる頃、Gareth Dicksonの音楽は、より美しく輝き、哀愁を映し出す。「Orwell Court」は、希望の未来や、来なくてもいい明日を想う、それぞれの心模様にそっと寄り添ってくれる作品です。
Tracklist
1. Two Halfs
2. The Big Lie
3. Snag With The Language
4. The Hinge Of The Year
5. Red Road
6. The Solid World
7. Atmosphere