奏でるピアノは、ジャンルの壁を超え、多くの人の心を優しく包見込む、旧東ドイツ出身のピアニスト、作曲家、ヘニング・シュミート。
今年夏に先行シングル”Hochzeitslied(婚礼の歌)”で、瑞々しさに溢れた美しさ、そしてほのかなノスタルジーが入り混じり、これまでになくリラックスした演奏を聴かせてくれたヘニングさん。「Walzer」と題された、ワルツにインスピレーションを受けてレコーディングされた新作でもこの流れは変わらず、これまで以上に、ジャズ、クラシック、現代音楽、そしてワールドミュージックまでも昇華した独自のピアノスタイルは、多彩な音楽性とともに、誰でもが親しめるポピュラリティーを獲得している。
エレクトロな要素を排した、純粋にピアノのみで奏でられる、今回の作品。いつもながらのHenningさんらしい、細やかな心配りが行き届いた繊細なタッチで放たれる、瑞々しいピアノのメロディーはもちろんなんですが、そんな中にあって、本作では、これまでになくピアノのアタックが、まろやかな気がするんですよね。ピアノ音楽の持つ洗練された表現と様式が最も純粋な形で表れているようで、どんなシチュエーションでも平等に受け入れてくれる優しさが、堪りません。どちらかといえば、絶対的なメロディーで聴くものを癒すというよりは、ピアノが響く空間をも含めたバランスで聴き手を魅了してきたところもあるのですが、今作では、シンプルにピアノと向き合うヘニングさんの心模様もどこか感じるところもあって、そんなところがこれまでの作品とは少し違った、寛容さや励ましに似た心地よい安心感を抱くことができるのかもしれません。
この作品で聴ける、ワルツのリズムとともに奏でる、リラックスしたヘニングさんのピアノは、まるで心のバランスをリセットさせてくれる温もりのよう…。