Jacinta Clusellas「El Pájaro Azul」(RIP CURL RECORDINGS)

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切ない心模様を大海原がなぐさめてくれる、おおらかで優しい音楽

ここ数年、日本でも積極的に紹介されるようになってきたアルゼンチンの音楽。これまで、中南米音楽に精通した人にしかなかなか伝わらない”ボーダー”が、どこかあったような気がしたのですが、カルロスアギーレの登場以降、コンテンポラリーフォルクローレという、伝統音楽に根ざしながらも、ジャズ、クラシック、ラテン、フォークなどを織り込みながらボーダレスな魅力を持った音楽をリリースする音楽家の作品が、日本のワールド・ミュージック中南米音楽を愛する人たち(ジャンルに固執しない柔軟な耳の持ち主)の尽力により、90年代のアルゼンチン音響派の流れにはなかったポピュラーな広がりを感じます。

そんな風通しの良い状況になってきた中で、今回日本で紹介されることになった、ブエノスアイレス出身の、女性シンガー・ソングライター/ギタリスト/アレンジャーでもあるJacinta Clusellas(ハシンタ・クルセージャス)のデビュー作「El Pájaro Azul」は、まさにそんな流れにふさわしい、デビュー作ながらも素晴らしい内容なのです。

バークリー音楽大学を経て現在はNYで活動するハシンタ。この作品は、同じバークリー出身のスペイン人の、マリアン・G・ヴィジョータを迎え、とてもデビュー作とは思えない、総勢15名もの若手ミュージシャンが参加したプロダクションの中、制作されています。

マリアン・G・ヴィジョータは、同じスペインの作曲家であるハビエル・リモンの作品「Promesas De Tierra」のエンジニアとして参加し、2014年ラテン・グラミーにて優秀録音アルバムにノミネートされた実績を持つ女性エンジニア/アレンジャー/プロデューサー。可憐で密やかな魅力を感じるJacinta Clusellasのヴォーカルと、ジャケットの大海原を自由に羽ばたくような、スモールオーケストレーションのバンドサウンドを、スリリングでかつ優雅にまとめあげています。

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「El Pájaro Azul」は、アルゼンチンの音楽家ではなく、NYで活動する多国籍な音楽家とともに作り上げた、スタイリッシュなジャズの要素が中心ながらも、サウンドの底辺にはきっちりと自身の故郷であるアルゼンチン音楽のルーツがちりばめた、アルゼンチンのコンテンポラリーミュージックと共振する作品を作り上げています。

NYジャズと、アルゼンチンの伝統音楽が、共にオーガニックに結びつき、モダンフォルクローレの名作群に聴かれる、雄大な光景が、この作品でも感じ取ることができます。切ない心模様を大海原が、おおらかで優しくなぐさめてくれるような、繊細で、そして正確に描き上げるストリングスや、ピアノ、たゆたうリズム、優しいぬくもりを奏でるギター…それらがハシンタの、憂愁を含みながらも可憐さを失わない歌声とともに、身をゆだねたくなるほど美しい演奏が全編で展開されている。きっとラストの”El Pájaro Azul – Reprise”を聴き終えるころには、切なくも何かとても愛おしくなる感情を抱くことでしょう。

国内盤には、本編アルバムのCDとは別に、未CD化音源2曲を収録したボーナスCD−Rが付いていて、本編でのゴージャスさはないのですが、アコーステックギターとフルート、リズムセクション、そしてコーラスとストリングスなしのシンプルな編成ながら、原曲の持つ楽曲の美しさと歌声の魅力が伝わるものとなっていて、こちらもぜひ本編と併せて聴いていただきたい価値あるボーナストラックです。

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