Jason van Wyk『Attachment』『Opacity』(Home Normal)
(TEXT:kenji terada)
エモーショナルな空間で静かに響く、美しきノスタルジー
南アフリカはケープタウンをベースに活動する、1990年生まれの音楽家Jason van Wykのセカンドアルバム「Attachment」と、サードアルバム「Opacity」の2作品が、Home Normalからリリースされています。
「Attachment」は、2016年に、フランスのレーベル、Eilean Rec.よりリリースされていた作品を、Home Normalがリイシュー。もともとEilean Rec.のフィジカルなリリースは良質な作品の反面、超限定なので、形ある作品として手に入れたい人には嬉しいリイシューとなりました(とはいえこちらも500枚限定ですが)。
美しいピアノとドローンなストリングは、Goldmundのような繊細でノスタルジックな余韻を残し、わずかなエレクトロニクスやアトモスフェリックなレイヤーは、壮大さや、重厚さよりも、柔らかく瞑想的で、Jason van Wykの持つ慎ましやかな佇まいが表れているようでとても心地よい作品です。
<収録曲>
01. Kept
02. Before
03. Coherence
04. Unsaid
05. Return
06. Stay
07. Red
08. Found
09. Evanesce
10. Outset
11. Away
12. Depart
一方、「Opacity」は2017年にリリースされたサードアルバム。 前作「Attachment」の延長線上に位置するサウンドですが、よりニューエイジなエレクトリック〜シンフォニックサウンドが色濃いものとなっていて、ジャーマン・プログレなんかの要素もチラリ垣間見えたりします。
Bon IverやLubomyr Melnykのジャケで知られるGregory Euclideの、まるで宇宙空間を写した古い写真のようなアートワークや、”不透明な”と題されたこの作品の意味のがぼんやりと浮かんでは五感を補完し、消えてゆく。
よりアブストラクトなサウンドスケープになった一方で、隙間隙間に丁寧に紡がれるピアノの1音1音がとてもシンプルなんですが、前作以上に、ノスタルジーとメランコリア、親しみある抒情が浮かびあがる。
だけど曲が進むにつれ、そんなアコーステックピアノの音もさらに少なくなり、終盤数曲は、ほぼアコーステックピアノの調べは聴こえてこない。まるで遥か昔の記憶を辿るような、まどろみの展開から一気にダビーでミニマルな鼓動が刻まれ、やがてアルバムは終わる。後半のサウンドアプローチなんかは、近年のNils Frahmを思わせ、ポストクラシカルから作品をスタートさせる音楽家にとって、彼の存在は飽和状態のポストクラシカルのジャンルを打ち破る存在として、とても影響力があるのだとつい思ってしまった。
ただもう新鮮な感覚はどのジャンルにも存在しないと思える中で、ポストクラシカルもまた然りで、Nils Frahmのような挑戦的なサウンドアプローチは、いまやすっかり誰もが試みれるようになって作品も量産されている。そんなひねくれた見方をしても、Jason van Wykの音楽は、2作品を聴いただけですが、作品ごとに出直す意慾が感じられ、サウンドにも、とても繊細で丁寧さがあり、彼の表現のありようを伺わせる。しばし今後を注目してみたいと思わせる音楽家です。
<収録曲>
01. Shimmer
02. Blinded
03. Until Then
04. Recollect
05. Glow
06. Clouds
07. Beneath
08. For Now
09. Weightless
10. Clearing
11. Hidden
12. Eyes Shut