Jim Ghedi『A Hymn for Ancient Land』(Basin Rock)
Julie ByrneやNadia Reidという、日本ではまだ一部の耳が肥えたひとぐらいしかあまり話題になっていなけど、海外ではとても評価されている(そんなのばっかだけど)、シンガーソングライターの作品をリリースしている、UKの新興レーベル、Basin Rockより、Jim Ghediという、UKのアーティストの作品『A Hymn for Ancient Land』はぜひ耳にして頂きたい。
イギリスのイングランド中部の工業都市シェフィールド出身のまだ20代半ばの若き音楽家。ダービーシャー、シュロップシャー、スコットランドと、各地を転々と旅するなかで、自然環境、工業遺産、農村地帯、そして英国諸島の風景、そして美しい自然豊かなThe Moss Valleyの中で育った村などとのつながりを、6弦、12弦ギターを通じて描き上げます。彼の最初の作品は、2015年に、Cambrian Records(これも要チェックのレーベル)よりリリースした『Home Is Where I Exist, Now To Live And Die』で、これ、ギター中心のインストゥルメンタル作品なのですが、英国フォーク・ブルースやJohn Faheyのような伝統に根ざした技術をもちながらも、その演奏は、現代音楽のような先鋭さを持ち合わせていて、牧歌的な佇まいがありながらも、落ち着いた、予定調和なギタームード音楽とは全く異次元の演奏がとても印象に残る。あえて誤解を承知でいうなら、ポストクラシカルや、音響的実験音楽を聴いているような感覚と同じような、フォークギターでの演奏表現の可能性を探る彼の姿が惜しみ無く披露されている。
そして、彼の通算2作目となる『A Hymn for Ancient Land』でも、変わらず見事なフィンガースタイルのギターを聴かせてくれます。ただ決定的にファーストと大きく違うのが、ダブルベース、バイオリン、チェロ、ハープ、トランペット、ピアノ、アコーディオンなど、参加する演奏者が増えたこと、そして、ギター演奏がものすごくまろやかになっている。個人的にはこれは彼の成長と受け取っています。優雅なアレンジで、Jim Ghediが日々享受している、豊かな土地への賛歌が作品に込められていて、ため息ものの美しさと、穏やかさが広がっている。
例えば、1曲目の彼が育った、Moss Valleyを曲にした”Home For Moss Valley”や、スコットランド・パースシャーのフォーティンゴール村の教会敷地内にある、ヨーロッパイチイの古木のことを題材にした、“Fortingall Yew”、ギターではなくピアノとオーケストラで奏でる美しい”Banks of Mulroy Bay”、そしてラストに、イギリスのシェフィールドにある風景を邪魔する物がないのどかな田舎道、Sloade Laneのことなど、この作品に収録されている曲名を検索し、出てくる画像なんかを眺めながら作品を聴いてみると、彼の奏でる旋律は、深くその場所の感覚に根ざしていることが伝わって来ます。この作品の高揚感と、穏やかな心の鎮まりは、なんだか心が旅するような気分にさせてくれます。
01. Home For Moss Valley
02. Cwn Elan
03. Bramley Moor
04. Fortingall Yew
05. Phoenix Works
06. Banks of Mulroy Bay
07. Sloade Lane