『 日+月+星 』~まるで陽だまりのなかにころがってひなたぼっこしてるような空間…
今年に入り2度、PASTEL RECORDS主催の音楽イベントを開催いたしました。1つ目は、津田貴司+笹島裕樹によるスティルライフのワークショップ&ライヴ、そして2つ目は、ドイツのレーベル、Sonic Piecesのアーティストによるライヴとワークショップ。そのいずれの会場も、今回ご紹介する「日+月+星」(sun moon star)さんで開催させていただきました。
『日+月+星』オーナー夫妻とは、PASTEL RECORDSの店舗の時からよくお世話になっていたのですが、まさかイベントもお世話になってしまうとは…奈良で、年々ライヴイベントの開催が難しくなっている中で、『日+月+星』は、自分にとっても奇跡のような出会いだったし、この場所の持つ心地よい静寂さに包まれた空間の素敵過ぎること!実際に空気感だけじゃなく音の響きも素晴らしく、先月この場所で演奏してくれた、スペイン人シンガーソングライター、ラウエルソンも「この場所にアコーステックピアノがあればもうパーフェクトだよ!」なんてことを話していたみたいです。
なんでそんなに良い音空間なのかは、本文を読んで頂くとして、そんな場所でイベントをさせていただいた、オーナーの福徳夫妻にはただただ感謝しかございません。今回、この素敵な空間を、PASTEL RECORDS~公園喫茶をご覧いただいている方にぜひ知ってもらいたく、PASTEL RECORDSと、『日+月+星』の福徳夫妻ともご縁のある、「にゃら新聞」の”ぴぴぴ”さんに取材をお願いいたしました!
ほのぼのとした独特の世界観がにじみ出てる、味あるイラストと、一般の情報誌では絶対取り上げられないマイナーな地元奈良の情報をフォローした、奈良愛溢れるフリーペーパーを発行している、その名も「にゃら新聞」。じつは私も、音楽コラムを寄稿しております。ぜひ発行された際は手にとって頂きたいです。それでは”ぴぴぴ”さんがガイドする『日+月+星』をご覧ください。(kenji terada)
※取材はSonic Piecesのイベント前の2014年4月上旬頃行われたものです。
photographs & text : pipipi (nyara shimbun)
佐保川に架かる橋を渡ると突然空気の流れ方が変わるのを感じる。時間の流れが止まったかのような穏やかで心地いい不思議な空間。そばには聖武天皇陵も。すっかり観光地化されたならまちとは違い、古くから地元の息遣いを感じることのできる、奈良きたまちエリア。かつて安土城の築城にも影響を与えたという多聞山城跡(現在は若草中学校)のふもと、住宅街の中にひょっこりとたたずむ三角屋根の音楽堂(ホール)があります。ここがギャラリー『日+月+星』です。
25年も前に建てられたとは思えないモダンな建物。ホールの中にはとても心地いい光が溢れています。まんまるい窓や半円の窓からこぼれる光が穏やかに部屋を照らしてくれる。それはとても考えられていて、時間が流れるたびに光の表情が変化する。朝日や夕暮れ、星空、雨降り…空の色が変わるとホールの雰囲気も変わる。部屋の中に居るのにまるで外でひなたぼっこしているかのような不思議な居心地。
ギャラリー『日+月+星』オーナー夫妻がここに暮らし始めたのは昨年の6月。ここには以前ピアノの先生が暮らされていたそうです。このホールはピアノを奏でる為に造られました。月日が流れ、家主を失ってからもこのホールはお弟子さんやたくさんの人達に愛され守られ、そしてこの場所に住むべき人をずっと探していました。3台あったピアノは秋篠音楽堂などに寄付されましたが、このホールは家主を失ったまま、音が消えひっそりとたたずんでいたのです。
そんな頃、新しい住処を探していた『日+月+星』オーナー夫妻のもとへ、このお家のお話がやってきました。音楽好きな夫妻とこのホールの出会い、今になって思うのはきっと出会うべくして出会った場所なのでしょうが、それでも最初はお断りされたそうです。しかし、その後も思うような住処は見つからず、そしてこのホールも次の家主が見つからないまま月日は過ぎていきました。
この親しまれていた場所が、全くの見ず知らずの人、業者に渡されること…それは、いくらその場所に思いが込められていようとも、新しい家主が、維持や管理が難しい場合は、ほぼ間違いなく取り壊されてしまう運命にあります。一度失われたものは、二度と戻りません。それから半年、先生のお弟子さんたちが、再び夫妻の元を訪れ、ぜひここで暮らしてほしいという熱い想いを再び伝えます。そしてその思いと、この場所に魅せられた夫妻の思いがようやく一つになり、三角屋根の音楽堂は、ギャラリー『日+月+星』として再び扉が開かれることになったのです。
窓からこぼれる光にサンキャッチャーの虹色が加わり、宇宙椅子職人の造る椅子たちがさらに居心地のいい空間をつくりだす。やはりこのホールはこの二人に暮らしてほしかったんだとそう言っているように思います。そして前家主がこのホールで音楽を奏で、音楽を愛した想いはつながり、再びここに人が集い、音が流れはじめるのです。
音を感じる為だけに設計されたホールは、今では来る人を拒まずおおらかに包み込んでくれる。きっとこの建物も前の家主が居なくなってから、こんな日が来るのを待ち遠しく思っていたに違いありません。これからこの場所が、どんな風にゆるやかなひとときを紡いでゆくのか、ワタシは、今からとても楽しみなのです。皆様も言葉には表現できない心地良さをぜひ一緒に感じてみて下さい。
日+月+星(Sun Moon Star) 「日+月+星」という名前は、現代アメリカ文学を代表する作家、カート・ヴォネガット唯一の絵本『お日さま お月さま お星さま』(絵はアイヴァン・チャマイエフ)から付けられたのだとか。 住所 630-8112 奈良市多門町35-2 |