Ulises Conti「Los Griegos creían que las estrellas eran pequeños agujeros por donde los dioses escuchaban a los hombres」
interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
昨年、flauより日本デビュー作となる「ATLAS」をリリースし、来日も果たした、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のコンポーザー、マルチ・インストゥルメンタリスト、サウンド・アーティストのUlises Conti(ウリセス・コンティ)。
「ATLAS」は、彼のオリジナル作ではなく、これまでリリースしてきた5枚のソロ・アルバムから選曲し、新曲を加えた、日本独自編集の作品で、ウリセス・コンティのことをよく知らない人でも、美しい音楽に触れられるよう編集されています。折しも、ポストクラシカルというジャンルの認知が、ようやく広まった頃なので、ひょっとすると、この作品を聞いて、きれいなピアノを弾く、ピアニストの作品と勘違いする人もいたかもしれません。実際、レーベル側によると、思った以上にセールスが良かったんだとか。
ただあくまで、「ATLAS」は、ウリセス・コンティを知る、入口にすぎません。モダン・クラシカル、エレクトロニカ、アンビエント、エクスペリメンタル、そしてロック・ミュージシャンでもあるローラ・アリアスとはガレージロックな作品や、多くの映画サントラ、舞台音楽まで…一つのジャンルだけの範囲ではこれほど多種多様な音楽には関われません。彼の才能の奥深さを知るには、当然のことながら、オリジナルアルバムを聴いて頂くのが一番なんですが、ただ言えることは、何かに縛られることのない自由な創造性~空想を喚起させるような、言葉にすると、とてもはっきりとしないのですが、それがとてもシンプルなんだけどじわじわ聴き手を侵食してゆく。
今回程よいタイミングで、ウリセス・コンティの新作「Los Griegos creían que las estrellas eran pequeños agujeros por donde los dioses escuchaban a los hombres」が日本で紹介されるようになりました。これはひとえに、「ATLAS」を含め、なんとか日本の音楽好きの皆さんにこの素晴らしい音楽家を紹介したい、というflauレーベルの尽力あってのことだと思う。この手のアーティストは、誰かがいつかリリースしてくれるだろう、なんて他力本願な希望で、日本に紹介されるようなアーティストでは残念ながらない。いつだって、本当に素晴らしい音楽は、損得勘定じゃないところで人の心が動き、紹介されるものだと僕は勝手に思っています。
さて、内容の方は、27のピアノとサウンドスケープ、フィールドレコーディングからなる小品集で構成されています。レーベルの解説によると、≪ AからZまで27の楽曲は、「サウンドのアルファベット」をコンセプトに、ピアノを中心とした演奏と、遊園地、子ども達、虫の声、バスケットボールの試合、飛行機や鐘の音など、Ulisesの周りで聴こえる日常生活に潜む音を録音、加工し、これらの楽器/非楽器の全てが新しい音として再定義されるように処理されています~flauレーベルサイトより≫。
決してコマーシャルさはないけど、説明以上に難解さ、ジャンルの雑多さは皆無。聴こえてくるサウンドは、ミニマルで一つ一つの響きがとても大事に、丁寧に折り合い、美しく奏でられている。それは、少ない音数でもファンタジックさや静謐さを生み出すピアノであったり、夕暮れの1日の最後の輝きを放つ太陽のような、サウンドスケープであったり、アルゼンチンの風土を帯びた、切ないメロディーであったり…。それらが本当に柔らかな空気のように聴き手を包み込みこころ落ち着かせてくれる。彼の住んでいる世界の日常はこんな音楽のような空気で満ちてるのかな?なんて聴いていると勝手にうらやましくなってくる。
私はこの作品を発売のひと月ほど前から聴かせてもらっているんですが、聴けば聴くほど自分の心模様にすっと溶け込んでくる。ここにはシングルカットするような曲はないのかもしれない…。でもUlises Contiの音楽には、彼にしか奏でることができない、いつまでも浸っていたくなるような、淡い夢のサウンドスケープが、きっと心癒してくれるはずです。
■ アーティスト:Ulises Conti
■ タイトル:Los Griegos creían que las estrellas eran pequeños agujeros por donde los dioses escuchaban a los hombres
■ フォーマット:CD
■ レーベル:flau
■ 品番:FLAU33
■ ジャンル:ポストクラシカル/アンビエント
■ リリース年:2014年
<収録曲>
01. A
02. B
03. C
04. D
05. E
06. F
07. G
08. H
09. I
10. J
11. K
12. L
13. M
14. N
15. Ñ
16. O
17. P
18. Q
19. R
20. S
21. T
22. U
23. V
24. W
25. X
26. Y
27. Z
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