Anjou「Anjou」(kranky)~20年以上に渡る2人の友情が再び一つの作品で。
text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
いつも私の頭の中から忘れかける頃、おいおい!と思い出させてくれるように、Mark Nelsonは何らかの作品を発表してきている(と勝手に思ってるのは僕だけで、当の本人はいたってマイペースで作品を発表してるんだけど…)。派手さはないけど、時代の流行り廃りとは無縁のような佇まいを感じさせる彼のプロジェクトLabradford~Pan•Americanの作品には、音楽に対して誠実で、一貫した美学が込められている。そして今回届けられた、Mark Nelsonが関わる新たなプロジェクトAnjouは、ここ最近のPan•Americanでの活動で聴かせてくれたものとはまた違った、なんとも”痺れる”作品となっている。
ちなみに、Labradfordは、Tim Heckerや、Deerhunter、Grouper、Tara Jane O’Neil、Low、Stars Of The Lidなどそうそうたる面々の作品をリリースしているシカゴのレーベルkranky最初のリリースアーティストで、初期は、krankyの看板的存在だったグループ。内向的で、ノンビートの、ギターを中心としたドローンサウンドは、どこかもの悲しくもソフトなサイケ色漂う、krankyのレーベルカラーを象徴するものでした。
その後、Mark Nelsonは、Labradfordの活動と並行し、97年に、Pan•Americanをスタートし現在に至ってます。さて、Mark Nelsonの説明ばかりになってしまいましたが、Anjouは、もちろんMark Nelsonだけのプロジェクトではございません。もうひとりは、Labradfordの元メンバーであり、A Winged Victory For The Sullenで活動する、Adam WiltzieとのAix Em Klemmや、Jagjaguwarからリリースしている、地味渋スローコアバンド、Spokaneに参加していたりしている、Robert Donne。
2人は、もともとLabradfordで一緒に活動をしていたわけなんですが、今回のレコーディングは、なんと2000年にリリースされたLabradfordの「Fixed::Context」以来だとか。完成に4年をかけたということで、Pan•Americanの「White Bird Release」(2009年作)以降、断続的に続けられていたということになります。そういえば、全く話題にも上らなかったのですが、Pan•Americanの今のところの最新作「Cloud Room, Glass Room」(2013年作)には、Robert Donneの名前が演奏者でクレジットされているんですよね。個人的になんかにんまりしちゃったんですが、Anjouは、よりRobert Donne、Mark Nelsonが、久々にがっつり向き合ったプロジェクトといえるものなのです。
おそらくRobert Donneによる、お腹にまで届くくらい響くダビーなベース、そしてraster-notonを思わせる、緻密に配置されたグリッジや、まるで勢いよく吹き出す蒸気の音のようなノイズだったり、モジュラーシンセ、Max/MSP、そして、各自の演奏の組み合わせによって生み出すサウンドは、いつになく刺激的で、瞬く間に耳を奪われてしまう。
そんな中にあっても、うねりの中に徐々に浮かび上がる、彼ら独特の哀しみを含んだサイケデリアは、まさにLabradford~Pan•Americanの音楽を作って来た人だな~と改めて感じさせる。Pan Americanの正式メンバーにもなったSteven Hessの繰り出すインダストリアルなドラムも含め、実にアグレッシヴでノイジーな作品を印象づけてますが、これまでの作品で試みてきた、ポストロック、スローコア、アブストラクトでミニマルなテクノ、ダークなドローンやエレクトロニクスの要素が、前述の確固たる美学の上で結びつきあい、さらにその美学に寄り掛かり過ぎない、絶妙なバランス感覚を持ちながらチャレンジしていて、実に聴き応えある内容となっています。
音楽の方とは違うんですが、今回のジャケ、ともすればお洒落なジャズやボッサと勘違いされそうですが、中身のエクスペリメンタルなのとのギャップが(ケビンドラムほどじゃないけど)なんか好きだな~。
■ アーティスト:Anjou
■ タイトル:Anjou
■ フォーマット:CD
■ レーベル:kranky
■ 品番:krank185CD
■ ジャンル:エクスペリメンタル/アンビエント
■ リリース年:2014年
▼Tracklist
01. Lamptest
02. Sighting
03. Specimen Question
04. Readings
05. Inclosed
06. Adjustment
07. Backsight
08. Fieldwork
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