【インタビュー】Aspidistrafly(April Lee)~A Little Fableについて(2011年冬)
2011年も、もう終わろうとする季節に届けられた1枚の作品を、僕は何度も何度も聴いていました。その作品は、シンガポールを拠点に活動するApril LeeとRicks Angによる男女ユニット、ASPIDISTRAFLY(アスピディストラフライ)による2ndアルバム「A Little Fable(小さな寓話)」。日常から空想の世界をめぐる中で時間と空間の境界線から解き放たれたストーリーがこの作品では展開されていました。そんな素敵な作品を作った彼らに話を聴いてみたく、pdisさんのご協力のもと、2011年の暮れに、来日中だったメンバーのApril Leeさんにメールインタビューを致しました。このインタビューは、PASTEL RECORDSのWEBサイトで公開されていたものなのですが、「A Little Fable」のリイシューに合わせて、この公園喫茶で再掲載することにいたしました。もし初めて「A Little Fable」を聴かれる方がいたらぜひこのインタビューを読んでいただけると作品の世界がより理解して頂けるのではないでしょうか。また、このインタビューは「A Little Fable」に焦点を当てておりますが、彼らのレーベルのこと、パッケージへのこだわりについては、ダカーポで掲載されている中正さんのインタビューをぜひチェックしてみてください。
interview & text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
最近は何を聴いていますか?
最近は音楽アルバムだけではなく、バックグラウンド・サウンドや、例えば、Robert Flahertyの『Nanook Of The North』 (1921年)や、Arunas Zebriunasの『The Girl and the Echo』 (1964年) といった古い映画のサウンドトラックを聞いています。私はいつもノスタルジアや過去に興味をそそられるんです。昔はどのように人々は暮らしていたのか?どのように世界を見ていたのか?どうやって音楽やアートを作り出していたのか?などと想像することがとても良い刺激となって、自分の作品にアイデアを与えてくれます。『A LITTLE FABLE』を作る上でも、古い映画は重要なインスピレーションでした。それ以外では、Metalic Falconsやtwinsistermoonを聞いています。
さて、新作について聞かせてください。まるで70年代のブリティッシュフォークの作品を聴いているような感覚がしました。またその反面、ファーストで聴かれた幻想的なエレクトロアンビエントもまた作品に自然と溶け込んでいます。よりあなた方の音楽的嗜好が、Aspidistraflyとして生み出す音楽により成熟した形で反映されてきていると思いますが、その点はどう感じられますか?また、フォーストよりもヴォーカルナンバーが増えていますね。これはアルバムを作る際に意図したことなのでしょうか?
このアルバムは、自分のルーツ回帰なのかもしれません。何年も前に音楽を作り始めた時は、ギターと自分の声だけで音楽を作っていました。理由はそれしか持っていなかったからです。それから数年経って、テクノロジーが急速に発展していって、実験的な事に興味を持ったり、自分の声とギターからサウンドをプロセスしたり、形や構造を無視したような曲を作るようになりました。
今回は、前のアルバム『i hold a wish for you』とは全く違う事をやりたかったのです。あるとき、私の声とアコースティック・ギターだけで作った古いデモを見つけた時があって、そのときに、乾いたボーカルとアコースティック・ギターが中心となる親密な雰囲気のアルバムを作ろうと決めました。でも、それだけでは私たちのサウンドやヴィジョンは完成しなかったので、前作のいくつかの要素も『A LITTLE FABLE』には存在しています。例えば、連続性のあるトラックやフィールド・レコーディング、そしてRicksが作り出すアンビエント・ドローンは、アスピディストラフライの活動を始めた時から、私たちの音楽の特徴になっています。
アルバムタイトルの、『A LITTLE FABLE』にはどのような意味が込められていますか?
このアルバムの曲のほとんどの歌詞は、民話のシーンやキャラクターからアイデアを得ています。たぶんグリム童話に似たような。。。『A LITTLE FABLE』は、音楽やサウンドという形を使って私自身が書いた物語なのです。
1曲目から4曲目までの流れが、日常の中の雰囲気を持っていて、それ以降は幻想的な美しさを持った浮遊感あるものになっています。曲の流れがとても意味のあるような気がしたんですけど、作品のテーマに合わせた構成をされているんですか?
その通りです。1曲目から4曲目はまとまりのある日常的な雰囲気ですが、その後だんだんと暗く、ドリーミーな雰囲気へ流れていきます。これはストーリーの展開上の、意図的な変化なのです。5曲目からは、森の中の隠れ家のような小屋から神秘的に荒れ狂う海のようなシーンまでを盛り込みたかったのです。すべての民間伝承の童話には、常に、美しさ/喜び/光があって、それから恐怖/悲しみ/暗闇があって、それから場合によっては再び平和に戻るといった流れがあります。そういった正反対の力は互いに繋がっていて、互いに依存しあっていると思っていて、そんなコントラストをアルバムに持たせたかったのです。
アルバムの終盤では、すでにとても暗くて寂しい雰囲気になってるので、サプライズとして、最後の一筋の希望として、シンプルに秋の輝きの純粋な魅力を表現した『Twinkling Fall』のような明るい曲を持ってきました。それから、もしアルバムをループさせて、また最初から再生させると、途切れ無いような音の流れになっているんです。
最後の曲(Twinkling Fall)を聴くと、Vashti Bunyan「Just Another Diamond Day」の”Lily Pond”を思い浮かべてしまうのですが、この曲を選んだのと最後に持ってきたのはどうして?
『Twinkling Fall』を最後に持ってきた理由は上記で述べましたが、この曲名は、このアルバムのアート・ディレクションとスタイリングのために一緒に仕事をしたアーティスト、Rika M. Orreryのある写真集の題名でした。私はその写真に刺激を受けて曲を書いたのです。ご存知の通り、『Twinkling Fall』は伝統的な童謡『Twinkle Twinkle Little Star (きらきら星)』にちなんでいます。『Twinkle Twinkle Little Star』は星の歌ですが、『Twinkling Fall』は星の形をした秋の葉っぱを比喩的に歌ったもので、この2つの曲にはいたずらっぽい繋がりがあります。例えば英語で「catch a star (星をつかむ)」と言いますが、私の歌では同じ言い回しを使って秋の葉っぱのことを歌っています。
ところで、曲を作る時ってどんな感じで進めていくんですか?
ほとんどのアーティストたちは、自分の経験から曲を作っていると思います。でも『A LITTLE FABLE』は、私の理想とする経験を作りたいという欲求から誕生しました。古い映画や古典文学、そして昔の音楽からビジョンを生み出して、自分の音楽と歌詞に変換させていきました。前のアルバム『i hold a wish for you』では、肌触りや滑らかさに焦点を置いて、オーソドックスなメロディーや歌詞の制作過程を無視して、とても実験的なアプローチを取っていましたが、今回はメロディーと歌詞に優先順位を置きたかったのです。それらが『A LITTLE FABLE』の物語の原動力だったからです。そして、リスナーに、歌詞の奥にある崇高な意味を見つけ出してもらえたらと思いました。
今回はたくさんの日本人アーティストが参加しています。彼らに参加してもらったのはこれまでの、あなた方の活動の中で必然な流れだと思いますが、参加してもらう際に、何か彼らに期待するところはあったでしょうか?
『A LITTLE FABLE』に参加してもらった日本人のアーティスト達は、2007年初期に出会ったとても大切な友人達です。最初に日本を訪れて以来、時々、私たちも含むみんなを一つのムーブメントとして見ています。彼らの音楽性や影響されたものから、彼らのことをとても良く知っているので、そんな彼ら自身のユニークさを私のアルバムに提供してもらえたらなと思いました。私からはほとんど何も提案をしなかったのに、結果として思っていた以上のものが出来上がりました。異なる考え方が一緒になった時に、共同制作の可能性は最大に引き上げられるのですね。なぜなら、一人一人が異なった経歴を持ち、異なった影響を受け、音楽に対して異なった姿勢を取っているんですから。音楽以外の点でも、『A LITTLE FABLE』は、友情関係の大切な回顧録となりました。
レコーディングの際に何かエピソードみたいなものはありますか?
特に、ミュージックビデオ『Landscape with a fairy』の制作はおもしろい経験でした。アーティストのRika M. Orreryが、神戸にある彼女の秘密の場所をロケ地に選んでくれたのですが、最初に、丘の上にある「アリス」というひっそりとしたカフェに連れて行ってくれました。勿論そこは日本なのですが、その建物や庭園はまるでヨーロッパの古い映画に出てくるシーンのようでした。次に、紅葉真っ盛りの秘密の森に行きました。秋の風景が素晴らしすぎて、目が離せなかったのを覚えています。風が強く、とても冷たくて、でも私が着ていたものは薄い生地のレースのガウンだけで。。。自分の人生で一番寒い体験でした。それから、Orreryさんが熊が出没する可能性があると言うので、皆で念のため小さな鈴を身につけていたんです。彼女がそう言ったとき、私は「森のくまさん」を思い出しました。
最後に、Aspidistraflyらしさ、というものを言葉で伝えるとしたらどう答えますか?
ロマンチックなリアリズム。それはAyn Randという小説家の言葉がそれを要約しています。「ロマンティックな現実主義を実現する方法は、人生を実際よりも美しく、楽しいものにしようと努めること。さらにそれに対して、私たちの日常よりも説得力のあるリアリティを持たせること。」
■2011年にリリースされたセカンド作「A Little Fable」がライブ音源2曲のDLクーポン付きでリイシューされました。以前の写真集のようなパッケージではないのですが、リイシュー盤も手にしたくなる素敵なものとなっていますし、なにより今回のリイシューもレーベル在庫がなくなったら廃盤になる可能性もあるのでお早めに!(もちろんデジタルでも手に入りますがやっぱり”もの”として持っておきたいですよね。)2012年に東京・富士見丘教会で行われたライブからの音源2曲のDLクーポンが付いていますよ。PASTEL RECORDS STOREでも販売しております!
遅い朝の台所だったり、昼下がりや、ある場所の夕暮れ、星がきれいな夜空…などの、日常の風景の時が止まり、古いものと新しいものとが交差した夢と現実、時間と空間の境界線から解き放たれる、aspidistraflyの描く世界。間違いなくこの作品のリードトラックとなる、”LANDSCAPE WITH FAIRY”が聴こえてきた瞬間の何とも言えない、至福の感覚。たゆたうリズムに憂いを秘めたApril Leeの歌や、スタイルは変わらないもののストリングスやシューゲイズ的なアンビエントサウンドなどとともに、Kyo Ichinose(ストリングス・アレンジ)、徳澤青弦(チェロ)、haruaka nakamura(アコースティックギター)、柳平淳也 from いろのみ(ピアノ)、ホナガヨウコ(ピアノ)、 Akira Kosemura(ピアノ)、 Janis Crunch(ピアノ)等の日本人ミュージシャンの個性が加わり、より一層、優雅でノスタルジックな雰囲気を浮かび上がらせています。
■ アーティスト:Aspidistrafly
■ タイトル:A LITTLE FABLE (reissue)
■ フォーマット:国内流通盤CD
■ レーベル:KITCHEN LABEL
■ 品番:AMIP-0053
■ ジャンル:フォーク/アンビエント
■ リリース年:2014年(オリジナル2011年)
<収録曲>
01. A BLACK-NECKED SWAN
02. LANDSCAPE WITH A FAIRY
03. HOMEWARD WALTZ
04. COCINA
05. SEA OF GLASS
06. COUNTLESS WHITE MOONS
07. LANGUAGE OF FLOWERS
08. WOODEN ROOM
09. GENSEI
10. BLUE BONNET OF THE SEVEN STARS
11. DEAR SYLVAN
12. TWINKLING FALL