Islands of Light「Ruebke」〜はかないものに寄り添う美しく、不器用な優しさ

text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

精力的にリリースを続けるHome Normalですが、ここ最近のリリースで個人的に一番印象に残っているのが、この Islands of Lightの「Ruebke」という作品。ピアノを中心とした、華麗な…という表現とはまた違う、すこしばかり湾曲された美しいメロディーが心地いい作品です。

Islands of Lightは、ウィーン在住オーストリア人アーティスト、Dino Spiluttiniによるプロジェクト。本人名義でNils Quakとのスプリットや、SWAN FANGS名義でのリリースはしていますが、正直、Islands of Lightとは別物と考えていい内容でしょうか。シンセを使ったエクスペリメンタルなドローン作や、本人と思われるしゃがれヴォイスのインディーフォークロック…歌は別として、ポップな要素も持ち合わせているんですが、正直言うとイマイチかな。で、Islands of Lightでようやく本格的なアルバムリリースとなる訳ですが、これがこれまでと同じ人物が作ったもの？とちょっと驚いてしまうくらいな、ポストクラシカル作に。

リリース先のHome Normalのレーベルサイトには、Dino Spiluttiniへのインタビューが掲載されて、そこで作品についても触れられています。タイトルの「Ruebke」というのは、ドイツのハンブルク近郊の小さな村の名前だそうで、そこでの３年間の滞在が、この作品のインスピレーションのもととなっているようです。

個人的な意見として、ポストクラシカルには２つの音楽家のパターンがあると考えてます。一つは、幼少期より専門的なクラシックの教育を受けてきた人が、ポピュラーなジャンルで活動をするケース。もう一つは、特別な教育がないけど、ポピュラーな音楽の作曲過程において、ピアノを手にし、クラシカルな要素を加えてゆくパターン。もちろんこれらはざっくりとしたものなんで細かく突っ込まれると困るんですが、おそらくポストクラシカルがここまで１つのジャンルとして形成されてきた要因は、クラシックの音楽家や現代音楽の作曲家ではなく、ポストロック以降の流れの中で、非クラシックな音楽家によるクラシカルな要素が加わった作品というものがリスナーの中で、ありそうでなかったパターンの音楽として親しまれてきたからだと思うのです。例えば、Home Normalの初期タイトルでもある、Library Tapesなんかは初来日の時、ピアノを始めたのは実は３年前からなんだよ…と言っていたのが印象的だったし、Peter Broderickの最初の作品「docile」発表時には、「ピアニストでない人が作曲したピアノの曲はとても素晴らしいね。でもメロディーセンスは必要だよ」と発言していたり、彼らはいずれも後者（Peter Broderickは小さい頃から教育を受けてるかもしれないけど）にあたる存在だと思うのですが、Islands of Lightの「Ruebke」も同様に、必ずしも磨き上げられた技巧をもっていなくても、彼の奏でる詩的で叙情的音楽は、聴く者に深い感銘を与えているもの事実です。

愛と死を奏でる重いテーマ性がありながらも、ここで聴かれるDino Spiluttiniのピアノを中心としたメロディーには、シリアスさよりも、繊細な心模様が映し出された優しさが伝わってきます。ポツポツと少ない音数ながらも何かを語るかのような、美しいピアノのメロディー。わざと別のサウンドを重ね合わせたり、曲によってはプリペアードピアノを使ったりと、ソフトな不協和音を生み出し、若干屈折した一面も覗かせたりしますが、描き出すサウンドは、表ジャケットのようなダークで神秘的な雰囲気…というよりも、ジャケ内側にある、小さな花のモノクロ写真の佇まいのような、ささやかで、何とも言えない郷愁、そしてかすかな哀しみが、しっとりと漂う。ざらついたアンンビエンスの質感も、この作品にはマイナスにはなっておらず、むしろパーソナルさを伴い、より親しみやすさを感じてしまうでしょう。はかないものに寄り添う美しく、不器用な優しさが見え隠れする作品です。

■ アーティスト：Islands of Light
■ タイトル：Ruebke
■ レーベル：home normal
■ 品番：homen054
■ ジャンル：ポストクラシカル/アンビエント/エクスペリメンタル
■ リリース年：2014年

＜収録曲＞
01. Praeludium
02. Goerde
03. Bodil
04. Saendscho
05. Honung
06. Schlump
07. Heisternest
08. Muemmelmannsberg
09. Boris
10. Heimfeld
11. Gypta
12. Joses

Islands of Light「Ruebke」はPASTEL RECORDSでご購入頂けます！

2014年10月28日｜ Posted in 音楽レビュー｜タグ: Dino Spiluttini, Islands of Light, Ruebke, アンビエント, エクスペリメンタル, ポストクラシカル｜ Comments Closed　

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