hofli「十二ヶ月のフラジャイル」〜より遠く、深く踏み込んだ、音で奏でる暦
text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
はてさてこの作品をどのように紹介してよいものか、いろいろ思いを巡らせながらこのレビューを書いています。津田貴司さんによるソロ・プロジェクト、hofliによる最新作が発表されました。タイトルは「十二ヶ月のフラジャイル」。この作品から流れてくるサウンドには、美しさを引き立てたり、試行錯誤のようなものを全く感じることがなかった。
以前より、津田さんのことは、ライヴや作品を通じて存じ上げていたんですが、なにかこうぐっと親しくさせていただくようになったのは、2012年に行った、かぐれさんでのイベントがきっかけだったのかもしれません。そのときは演奏者ではなく、スピーカーを貸していただいただけだったんですが…。ともかく私が、ここ数年イベントやインタビューを含め、Facebookやメールでのやり取りで、精力的にフィールドレコーディングを常日頃行っていることは知っていたし、津田さんにとって、ライフワークのようなものに近い感じだと思う。その延長線上で、「みみをすます」というワークショップを始められ、さらに、笹島氏とのスティルライフを始められたことも、この作品には何らかの影響はあるんだと思う。フィールドレコーディングというものに対し、長い忍耐を要する微細な音に意識を開き、そこにピタリと自身のサウンドをあわせてゆくことへの細心の配慮とその技術に対する自身の揺るぎない信頼というものが、この作品をより遠く、深く踏み込んだものにしています。…なので”聴き流し”という行為がとてももったいない作品なのです。
デザイン・ユニットdrop aroundによる「音のカレンダー」というアイデアに基づき制作された「十二ヶ月のフラジャイル」。美しくもハンドメイドな佇まいも感じる素敵すぎるボックス仕様のパッケージには、活版印刷によるカレンダーが納めれている。これだけでもちょっとため息もので、その質感も含め、いつまでも大切にしたくなる。津田さんは、作品を発表するときには、いつも収録されているトラックの解説をWEB上で公開しているのですが、今回は、パッケージにも、その時の情景や気温、天気などの情報とともに津田さんの詩的な解説が綴られたリーフレットが封入されていて、サウンドを聴きながら、そういった情報が加わることで、音だけで聴いたときとはまた違った楽しみが広がります。またこの作品ができるまでの過程、各曲の解説も、津田さんのサイトで紹介されているので、ぜひこちらもご覧いただきたいです。
無意識に、当たり前のように聞いていたであろう音に、フォーカスを当てて耳を澄ませてみる。そこには、これまで知りもしなかった新鮮な感覚が生まれていることに気づきます。この作品では、様々な時間・場所でのフィールドレコーディングが使われてあるのですが、だからといって、この作品は、フィールドレコーディングだけに依存したものではありませんし、フィールドレコーディングをお飾りに使ったアンビエント作でもありません。この「十二ヶ月のフラジャイル」には、津田さんの視点で、音に対する畏れというものが実に表れたサウンドがフィードバックされ、美しく構築されている。
プレイボタンを押すと、静かに白鳥の鳴き声が聞こえてくる。そこには、ただ自然の営みを感じるだけのように感じるかもしれません。だけどじっくり耳を傾けると、この始まって数分間の中にも白鳥以外のたくさんの鳥の鳴き声が聴こえていて、遠くの方からも自然のものかどうかわからないゴーっとした音など、たくさんの情報が含まれ構成されている。それが営みであって、そこに季節があって、そして時の概念が繰り広げられている。
季節の移り変わりとともに、その時々の瞬間瞬間が見事に映し出された今回の作品。そこには演奏家の心象が楽器を通じて奏でられ、その響きが、様々な音の情報と混じり合ったとき、何がまどろみのような浮遊感とともに淡い感傷に包まれる。それがただただ、嬉しくいとおしいのです。聴き終わったあとの静寂すらも作品がまだ続いているかのよう…。
■ アーティスト:hofli
■ タイトル:十二ヶ月のフラジャイル
■ フォーマット:CD
■ レーベル:Drop Around Records
■ 品番:DR-002
■ ジャンル:アンビエント/エクスペリメンタル
■ リリース年:2014年
<収録曲>
01. 薄明のエーテル
02. にびいろ
03. 三月の水辺
04. 真珠星
05. 残丘
06. 夏至を忘れる
07. 分水嶺
08. 星を映す地図
09. 月光採集
10. O岬灯台にて
11. 渡り鳥と天気管
12. シベリア気団より
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