Oskar Schuster「Sneeuwland」〜柔らかな哀切が表れた美しいポストモダン作
text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
Oskar Schustersの最新作「Sneeuwland」(2014年リリース)を聴いていると、まだまだベルリンには若い逸材がたくさんいるんだなぁと嬉しいため息をついてしまう。このセカンド作品を聴いてまず思い浮かべるのが、フランスのミュージシャン/作曲家ヤン・ティエルセンか、もしくはハウシュカでしょうか。本人の紹介ページにも「アメリ」〜ヤン・ティエルセンの名前が真っ先に出てきているし、ファースト作では、このセカンドには使われていない、アコーディオンも使われていて作品の世界に結構影響を受けているんだなぁ〜というのが伺えます。
他にも、軽快でありながら哀愁を帯びたメロディーを聴かせるミュゼットや、東欧音楽、フランス、メキシコなど世界各地の音楽に独自の解釈を加えたエキゾチックで味わい深い作品をリリースしているベイルート、そしてシューマンやショパンによる伝統的なピアノ音楽、はては、シガー・ロスから、エイフェックス・ツイン、そして不思議の国のアリスや白雪姫といったディズニーアニメの映像の効果音やセリフなどをつなぎ合わせ作られたリミックス作品が話題になったPOGOなど、彼のHPではそんなバックグラウンドが惜しげもなく紹介されている。
でもこれだけ多様な背景がありながらも、「Sneeuwland」を聴くとなるほどなぁ〜と納得してしまうくらい、様々な要素が実に美しく結びつき合ってそれが、Oskar Schusterのオリジナリティーを浮かび上がらせている。
彼の作品は、ストリングスをやゲストヴォーカルを除き、ほとんどが本人による演奏で構成されています。優雅なワルツに乗った、ミニマルに奏でられる華麗で美しい旋律からは、彼の卓越したピアニストとしての側面も堪能できますが、古いタイプライタやカメラのシャッター音、オルゴール、鉄琴、電子音やグリッジなどをリズミカルに配置した、繊細で精密なリズムとメロディーとが巧みに折衷されたサウンドの構成力には彼の非凡なセンスを感じます。ストリングスにしても、さりげなくな感じにとどめているのも好感が持てるなぁ〜。でも、実際のところ、そんな細かい説明をしなくても、彼の豊かなセンスが醸し出す、柔らかな哀切が表れた美しいメロディーは、聴き手を限定することはありません。
Ólafur ArnaldsやDustin O’Halloranが好きな人にもぜひ聴いてもらいたい、淡く切なくやるせない感情が、繊細なメロディーに乗り移ったかのような”Wunder”を始め、派手さはないけど、しっとりとこころに染み入る叙情と、良き思い出を思い返す時の心持ちに似た淡いノスタルジーが詩情豊かに描き上げている。
またゲストヴォーカルに、アイスランドのPossimisteという女性アーティストが1曲参加しているのですが、その”Lumehelves”では、フランスから一気に北欧にトリップしたかのようなドリーミーな世界。2013年にも2人はシングル”Stjernen”を発表していてこちらもかなり素敵です。
Possimisteは、まだアルバム作品などは出してはいないみたいですが、公開されている曲を聴く限りでは、Oskar Schuster共々、今後チェックしておいても良さそう。
ともあれ「Sneeuwland」。音と音とが重なりが生み出す、現実逃避を促すようなドリーミーで切ない、素敵なポスト・モダン作なので、ぜひ一度聴いてみてください。
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