ARAKI Shin「PRAYER」〜「出会い」と「別れ」その表裏一体への祈りが深慮された作品
text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
奏でるサウンドの陰影がとても美しいアーティストだな…と、いつも思う。ARAKI Shinは、Jazz Collectiveのサックス奏者として活動をしながらも、akira kosemura、EXILE、haruka nakamura、永山マキ、vusik(関口シンゴ)等、多くのアルバムに参加、特にharuka nakamuraの作品では、管弦アレンジを手がけ、作品の奥行きを与えるのに貢献している。
ソロとしては、これまでRONDADEより2枚の作品をリリースしている。最初のリリースは、2008年の「A SONG BOOK」。limArtさんとの限定コラボパッケージ仕様も素敵な装丁でしたが、なにより通常盤でのモノクロの花のジャケット写真そのままの世界観が映し出されたような、ジャジーでメランコリックな小品集がたまらなく愛おしい作品でした。
洗練されたコード音を余韻と共に伝えるピアノやエレピ、時折聞き手の懐にすっと入ってくる上杉優のヴォーカル。そしてこの作品ではわずかな出番ですがARAKI Shinの端正なアルトの独創的な美しさにうっとりしてしまう。真夜中の、また、昼下がりの静けさの中、感性赴くまま作られたかのような音楽。
「Halls」(2010年作)は、永福町にあるクラシックホールのsonoriumでのライブ録音作品。「A SONG BOOK」収録曲と、新曲3曲がここに収められています。「A SONG BOOK」ではピアノ中心だったのが、ライヴではARAKI Shinのアルトサックスの演奏を取り込んだアレンジで、オリジナル作品とはまた違った側面を聴かせてくれます。
そしてそこから約5年ぶりに届けられた3枚目となる作品「PRAYER」が届けられた。“PRAYER” (祈り) と題された本作。「出会い」と「別れ」その表裏一体への祈りが込められた、これまでになく音の広がりを感じながらも、その佇まいは、「A SONG BOOK」で聴かれた美意識が貫かれていて聞き手の心に寄り添う優しさがある。
装飾を排したシンプルな構成だった「A SONG BOOK」とは違い、ピアノ、オルガン、サクソフォン、フルート、クラリネット、ギター、パーカッション、ヴォーカルと、重厚で繊細な世界観を映し出すにふさわしい編成で臨んでいるものの、変な仰々しさはなく、気品に満ちたオーケストレーションのセンチメンタルな響きは、もうためいきものの美しさ。
じつはこの作品で聴かれる演奏のほとんどが、ARAKI Shinによるもの。ゲストの演奏者で作り出す響きとは違い、全てをコントロールし生み出される独特の世界観には穏やかな孤愁があり、ぼんやり聴いいていても、じっくり聴いても、どこにでもあるようでどこにもない風景を聴くたびに映し出している。
また、これまでの作品に参加している、上杉優、そして国内外で作品を発表する写真家、喜多村みかによるヴォーカルもこの作品には欠かせないもの。2人とも、もともとは歌手を本業としているわけではない。上杉優は、トロンボーン奏者だし、喜多村みかも写真家だけど、内に秘めたかけがえのない一瞬の思いを映しとどめてゆくように、飾り気のないナチュラルな歌の余韻は、彼女達にしか生み出せない雰囲気がある。斉藤功による乾いた響きによるドラムキットの演奏も作品全体の空間の流れに沿った音響的なアプローチ。
さらにこの作品を特別なものにしているのが前田夏子(écume de mer)によるペーパー・コラージュ作品が収められたアートブックのジャケット。
ARAKI Shinの積み重ねてきた、思いや時間が繋がっているような、細部まで、深慮された作品。そして静かな気持ちで手に取り聞き続けたい音楽。聴く人の思いに寄り添い安らかに包み込む1枚となるでしょう。
■ アーティスト:ARAKI Shin
■ タイトル:PRAYER
■ フォーマット:CD+アートブック
■ レーベル:PAVO
■ 品番:PAVO-1501
■ ジャンル:モダンクラシカル/ジャズ/アコーステック
■ リリース年:2015年
<収録曲>
01. Old River
02. Into the Light
03. Flags and the Gate
04. 庭園の風
05. Why Did You Have to Go
06. After the Funeral
07. Gifu Honda
08. Anonym Gallery (Orchestra)
09. Anonym Gallery (Vocal)
10. Stars
11. Reborn
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