0「Umarete Wa Mita Keredo」〜新作は小津安二郎作品の伴奏付き上映会の委託を受け制作された作品 & Japan Tour 2015の案内

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text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)

何度か来日をしていて、日本でも人気の高い、Sylvain Chauveau。今年、10月にも彼を中心に、武満徹作曲賞を受賞した若手現代作曲家Joël Merah、パリ管弦楽団のパーカッション奏者Stéphane Garinらで結成された、フランス現代音楽の俊英アンサンブル「0」の一員として、日本ツアーを行うのですが、そのツアーに先駆けて、「0」の新作「Umarete Wa Mita Keredo」がflauよりリリースされます。

0の音楽は、ジャズや現代音楽の要素を含んだ、ミニマルに展開する作風であったり、彼らがライヴで演奏している、スティーヴ・ライヒ、モートン・フェルドマン、杉本拓、ジョン・ケージ、エリック・サティ、ギャヴィン・ブライアーズという名前を出してみたりすると、現代音楽という、やや難解さを伴いかねない、視点での紹介になってしまうのですが、実際は、グロッケンシュピールと様々なパーカッションの音、そしてギターによる、とてもやわらかく聴き心地の良いアンサンブルで、現代音楽をより広い視点で身近なものとして聴き手を心地よく楽しませてくれます。

実際のところ、前作『Soñando』がプレス分がソールドアウトになっているところを見ると、決して一部のリスナー支持、だけの結果ではないはずなのです。

そして今回届けられた新作「Umarete Wa Mita Keredo」は、あの、小津安二郎監督のサイレントフィルムを代表する傑作「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」のために製作されたもの。フランスの映画館で2013年、映画の伴奏付き上映会の委託を受けた際に作曲されたものなんですが、そこから14の楽曲をセレクトしたものが今回の作品に収録されています。3人のメンバーに加え、今回は、マーラー室内管弦楽団のフルート奏者Jùlia Gàllegoが参加しています。

当時の上映では、音楽伴奏もあったみたいですけど、彼らの演奏は、あえて、サイレントフィルムと共に…ではなく、見終えた後の余韻のまま聴いてみるのがオススメでしょうか。フイルムの中で映し出されている、かつてあった日本への哀惜は、現代の自分が経験なくても、どことなく日本人の根底に流れるメロディーが聞こえて来るし、そのメロディーが一番理想のサウンドトラックだと思う。

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ともあれ、それは彼らの音楽が聴くに値しない、というのとは全く違うし、楽しみ方の違い…でしょうか。この作品を聴いて、やっぱりSylvain Chauveau含め、「0」のメンバーは、信頼出来る音楽家だな、と改めて感じたし、この映画で描かれている、淡々とドラマ性を排した中にも、日本的な人情や人生の機微や哀歓を繊細に織り込みながら、戦前の日本の庶民の視線の先にある風景というものを、彼ららしい、音響的な美意識と感性、そして日本の文化からの影響をしたためながら、シンプルに落ち着いた調和を聴かせてくれている。小津作品で見られる、穏やかに晴れ上がった空に、心地良い風がそよぐ…そんな素敵な作品なのです。

そして冒頭で述べた、10月下旬より、0のジャパンツアーが行われます。ぜひ彼らの演奏に触れていただきたいです。小津安二郎の「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」の映像とともに演奏されるみたいですよ。

 


 

 

▪︎ 0 Japan Tour 2015
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10月24日(土) 京都・ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川 w. Noah、Polar M
10月25日(日) 福岡・日時計の丘 w. Kenta Inamasu + NAKAO Sho + ONUKI Makoto
10月26日(月) 岡山・蔭凉寺 w. Colin Vallon Trio
10月27日(火) 金沢・オヨヨ書林せせらぎ通り店
10月28日(水) 富山・nowhere
10月29日(木) 東京・アンスティチュ・フランセ東京・エスパス・イマージュ w. IKEBANA
10月30日(金) 東京・VACANT w. Illuha、Satomimagae

イベント詳細は、flauまで。

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