Brighter Later「The Wolves」〜夢に包まれ優しい輝きを秘めたデビューアルバム
text : Kenji Terada (PASTEL RECORDS)
ルクセンブルクのレーベル、Own Recordsより、オーストラリアの女性アーティスト、Jaye Kranzのプロジェクト、Brighter Laterの2013年リリースのファーストアルバム「The Wolves」がアナログ・リリースされました。ここ数年、Own Recordsのリリースペースが落ちていたのが少し気にはなっていたのですが、Brighter Laterというまた素敵な逸材をリリースするところはやっぱり良い耳を持ったレーベルだなと思う。Own Recordsは、シンフォニックなドローンや、アンビエント作品のリリースイメージがどこかあるのですが、実は、歌モノフォークやロック作品も多く、Trouble Books、squares on both sides、Natureboy、Good Night & Good Morning、Talons’、Mombi、Thomas Mery、Charge GroupそしてBELLA UNIONからもリリースしているTiny Ruinsまで、どれもサウンドは様々なんですが、男女問わずどことなく、アンニュイな雰囲気が魅力的な人たちが多い。今回のBrighter Laterの「The Wolves」もこの系譜にバッチリハマった、ドリーミーでフォーキーな作品です。
で、結論ですが、Brighter Laterかなり良い!もう2年も前の作品なんですが、年月がこの作品を風化させることはありません(だからOwn Recordsもリリースしたんだと思うしその価値のある作品だと思う)。ヴェルヴェッツやポストロックなサウンドが生み出す幻想的ムードは、Jaye Kranzの物憂なヴォーカルの佇まいも相まって、思わずマジースターのホープ・サンドヴァルを思い浮かべてしまったのですが、Jaye Kranzの方が、もう少し大らかな、時にジャズヴォーカリストかな?と思わせるエレガントなムードも感じさせます。同郷のTiny Ruinsとも近い感じも…ともあれ、彼女も才能ある歌い手さんだな〜と作品を聴けばすぐに分かる、彼女の柔らかな衝撃を受けることでしょう。
Brighter Laterは、マルチ・インストゥルメンタリストでシンガーソングライターの、Jaye Kranzと彼女をサポートする音楽家によるプロジェクト、ということらしいのですが、Brighter Laterのサイトなどを見ると、First Chorus Band Of Singersの、Virginia Bottとのプロジェクトなのかな?おそらく彼女の参加しているバンドPony Faceの面々なんかも参加していると思われます。
シンセや、エレキギターにエフェクトされた浮遊感あるサウンドスケープに、Jaye Kranzのギターとヴォーカルがゆったりと、たゆたう。決していろんな楽器やオーケストラを用いてサウンドを埋めていくわけでもなく、音楽自体に、強烈な個性がある、というわけでもないのだけれど、それぞれが絶妙に調和し、慎ましやかで、ヴォーカルの豊かな優しさと美しく溶け合い、聴き手は、無意識のうちに、闇の向こうの残響に心惹かれてゆく。ヴィデオで見せてくれるバンドセットの演奏もシンフォニックに共鳴しながら広がる素敵な演奏。
すでにオーストラリアでは評価が高く、オーストラリアにおける年間最優秀デビューアルバムを表彰する「Australian Music Prize(オーストラリアン・ミュージック・プライズ)」に「The Wolves」がノミネートされたり、ライヴでは、マーサ・ウェインライト(Martha Wainwright)や、キャレシコ(Calexico)のサポートもしているほど。いずれは、メジャーなレーベルにステップアップしそうな予感もするのですが、その前に、Own RecordsがリリースすることによってBrighter Laterの存在を知ることができたのは個人的に感謝です。みなさんもこの逸材をお見逃しなく!
2014年にリリースされた、最新シングル「Brace」も、よりスケールの大きさを感じさせるもので、いずれ出るニューアルバムも楽しみです。
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