Henning Schmiedt ヘニング・シュミート – Piano Miniatures(flau)
つながりを求める人間を分断するようなコロナ渦の日常が、たくさんの死者を出しながらも、パンデミックを乗り越えながら、それが徐々に当たり前のような感覚で各々が向き合えるようになってきているような…そんな中、ドイツのピアニストHenning Schmiedtの新作がリリースされた。前作「Piano Diary」もコロナ渦の中でのリリースだったから、本作「Piano Miniatures」は、「Piano Diary」とともに姉妹作とも言えるかもしれないけど、まったく異なった意味合いの作品でもある…と個人的には思う。
もしヘニングシュミートの作品に初めて接するのがこの作品だった人は、本当にラッキーというか、素晴らしいめぐり合わせだなと思う、それくらい本作は彼の代表作と言いたくなるはど、経験の深さと即興が結びついた素晴らしさなのです。「Piano Miniatures」では、小さな映画音楽、ミニソナタ、歌曲、小さな交響曲など、まるで顕微鏡で見たような音楽を、小さなフォーマットで表現したという作品。積み木で木や馬や小さな機関車、小さな都市を作った、子供の頃の遊びに戻ったような感覚で作曲・録音したという。自分と一緒にするのも何だけど、そういえば子供の頃、ブロックで、自分だけの家や街を作ってった記憶があるなぁ〜と思い出す。確かに、組み上げるたびにやりたいことがどんどん膨らんでいって、いつの間にか夢中になってたことがあった。
〜意識したわけではないのですが、演奏しているうちにノスタルジックな気分がしてきたんです。自分の心が幼い頃の時間にタイムスリップしていることに気がつきました。〜(より引用)と、mikikiのインタビューでヘニングさんは語っている。
彼の旋律は、即興のなかでの直感が反映され、音と音の余白をとても意識しているところが和の美意識にも通じるところがあるけど、それは日本で紹介された最初の作品「Klavierraum」で特に印象的だった。メロディーの優しさに惹かれるというよりは、フレーズ間に漂う余韻の中に不思議な心地よさに包まれる感覚が、それまで聴いてきたピアノ作にはないものだったからかもしれない。その作品以降、ヘニングさんは『Wolken(=雲)』『Spazieren(=散歩)』『Schnee(=雪)』と傑作ソロピアノ作品をリリースすることになるのですが、個人的にヘニングさんのピアノに対する印象が少し変わってきたのが、「Schöneweide」という作品からだった。それまでの作風から、もう少しヘニングさん自身の嗜好が反映されたような感じもしたし、より一層ノスタルジーな情調を持ったメロディーは今までになく素直な感情を表しているような気がした。私自身は、「Schöneweide」から「Piano Diary」までの作品は、すごく混沌としていて自身を振り返り、いろんな引き出しを整理し模索しているような気もした。そろそろ作品としての完成度の高い、現在進行系のHenning Schmiedtを聴いてみたい。そんな自分勝手な欲を抱いてた頃に「Piano Miniatures」は届けられた。
いつもながらヘニングさんらしいなと感じさせる素晴らしいピアノ…だけど、「Piano Miniatures」での演奏は、そこからもう少し聴く人の感情を揺さぶるものを感じる。この作品で感じるノスタルジーさはどこから来るのだろう?作品を聴き終えて感じたのは、演奏の美しさではもちろんだけど、メロディーや響きには、懐かしさや、感謝の思いが、情緒に流されることなく伝わってきたことだろう。また、経験に裏付けされた演奏だけでない技術があるからこその、どこか俯瞰しながら創り上げたようなとても完成された佇まいがある。潜在的に記憶する感情の揺れを人情過ぎず印象深くメロディーにしたためるピアノ。静謐さと繊細さを感じる巧みな音響処理に、子供時代のノスタルジーが昇華された愛らしい一枚に仕上がっています。
個人的にもヘニングさんの新しい作品が聴けるというのは、ちょっと大袈裟かもしれないけど、自分の人生の中で、ちょっとしたギフトのようなものだと思うところがあります。それはこれまでヘニング・シュミートの作品に親しみライヴ会場で彼の人柄に接した方ならきっと同意してくれるのではないでしょうか。
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