Quentin Sirjacq「Far Islands And Near Places」〜デリケイトに調和する美しい音の響きとリズムの調べ
日本のscholeから、これまでDakota Suiteとの共演作を含めると、4枚の作品をリリースしている、フランス人ピアニスト/作曲家/マルチ・インストゥル メンタリストQuentin Sirjacqの、3枚目となるオリジナルアルバムがリリースされました(日本盤はscholeから、海外はドイツのKaraoke Kalkより)。
どの作品からも内なる感情を1音1音丁寧に、しっとりと、そして鮮やかに奏でるQuentin Sirjacqのピアノ。デビュー作からのその印象は本作でも変わらずなのですが、アコーステックピアノだけではなく、フェンダーローズや、シンセ、そして、マリンバやグロッケンシュピールなどの鍵盤打楽器が加わったり、また、これまでにないビートプログラミングを取り入れ、ミニマルなリズムを意識したアレンジの楽曲が多く、これまでの作品にはない変化を感じるのではないでしょうか。
ダカーポでの中正さんのインタビューでも語っている通り、「Far Islands And Near Places」はポリリズムを意識し作られており、ピアノだけでなく幾つかの楽器奏者の演奏が奏でる複数の異なる拍子が重なり合うのですが、それが特別難解なものではなく、不思議と浮遊感とポエジーを生み出していて、ピアノソロ作にはない、リズムの制約という中にあっても、彼らしい繊細なタッチで描かれるピアノの情景が、より親しみやすく受け取ることができます。
とはいえ、全編リズム感を意識させられる作品かというとそういうわけでもなく、作品の中で、静寂もあり、作品の中で心地よい起伏をもたらしながら、中盤〜後半部分にかけては、目立つデジタルなビートは影を潜め、Quentin Sirjacqの繊細な感性が捉えた、深みあるイメージが鮮やかに浮かび上がった優雅な演奏が続く。ゆっくりと語りかけるような彼の心情を披露しているようなピアノ、雨音のフィールドレコーディングとともに描かれる幻想的な背景に、しっとりと奏でられる内省的なメロディー…。
「Far Islands And Near Places」は、ポリリズムを取り入れた、新しい手法だからこそ気づかされる、Quentin Sirjacqの繊細な感性とともに綿密に築かれた創造性と、美しく憂愁を含んだ旋律の魅力を、改めて感じ取ることができる作品でもあるのです。