フル・バンド編成によるミニマルジャズ~ポストロックに取り組んだ陶酔的なサウンドスケープ!
UKブリストル在住の作曲家/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリスト、Ryan Teague(ライアン・ティーグ)の通算6枚目となる作品がリリースされました。デビュー作以降、ポスト・クラシカルとエレクトロニカを自在に行き来し、オーケストラ、ギター、ピアノと、作品ごとに、メインとなる演奏の主役が異なってはいるのですが、いずれも彼が影響を受けているであろう、スティーブ・ライヒのミニマリズムを継承した軸はブレず、良質な作品をリリースし続けています。
ただここ数年のポストクラシカルを嗜好する音楽家が生み出す作品の方向性がある種、踊り場に差し掛かってきている中、前作「Block Boundaries」では、ポストクラシカルの流れから、ビートに重きを置いた、アーバンで流麗なエレクトロニカ作品をリリースし、今後の展開における色々な方向性も示唆するものも感じられたのですが、その後、インドネシアでジャワのガムラン音楽を学ぶなど、自らの道を模索しながら、新作をリリースするにあたって取り組んだのが、フル・バンド編成によるエレクトロニカ~ポストロック作品でした。
「Site Specific」に全面参加しているのが、アムステルダムのクラリネット奏者で、Machinefabriekや、Merzbowとのコラボレーションで知られる、Gareth Davis(ガレス・デイヴィス)と、ローズ・ピアノを弾く、Dan Nicholls(ダン・ニコルズ)。他にもAndy Niceのチェロや、Tim Gilesのドラム、Brian Hermanのフリューゲルホルン、そして未確認なので本人かどうかわからないのですがおそらく、元Spiritualizedかも…の、Tom Edwardsのパーカッションと、いずれもメジャー/インディー問わず多くの作品でクレジットされている面々ばかり。
なんとなくこれまでのRyan Teague作品には、自身の作曲に演奏が締め付けられているようなカッチり感が、ちょっとまとまりすぎてるかな?という印象もあったのですが、繊細なテクスチャーはそのままに、この作品で聴ける、ミニマルジャズと即興を、序盤から慌てずゆっくりと奏でながら、スペーシーでシネマティックな広がりを生み出してゆく演奏は、これまでの作品にはないバンド編成ならではの要素が感じられ、時にスリリングな展開も含め、各人の最小限の即興がとても心地よく、刺激的に聴くことができます。
ミニマルというある種必要最低限の制約だからこそ、自由なムードがありながらも、即興とはいえ各演奏者のソロ披露に終始していないのは、やはりRyan Teagueの美しいメロディーとハーモニー、巧みな構成力があるからこそでしょうし、「Site Specific」によって、新たな表現の選択を獲得した、Ryan Teagueのサウンドスケープからは、まだまだ目が離せない興味を抱かせる充実作です。
▼この作品のライヴ映像も要チェック!