この作品が陽の目を見たのは偶然なのか必然なのか…?どんな理由かはわからないけど、陰惨な時期を過ごしていた若き日のSibylle Baierを見かねた友人のClaudineが、ある日、彼女を元気づけるため、引きこもり状態の彼女をベッドから引っぱりだし、イタリアは、ジェノヴァのアルプス山脈へ旅行に出かけます。それから、旅行から帰宅した彼女は、まるで気持ちが入れ替わったように、自宅で、本作収録の”Remember the Day”を作り上げます。
ジェノヴァへの旅行をきっかけに、内なる感情を何か形に表現したい欲求が、彼女を音楽に向かわせたのか?ともかく、生きていることの感謝を綴った”Remember the Day”が彼女の最初の録音となります。この録音を皮切りに、70年から73年にかけて、少しづつ録音を重ね、「Colour Green」が出来て行くのですが、もちろんスタジオでプロフェッショナルなプロデューサーやエンジニア、またサポートする音楽家などもいません。彼女の自宅にオープンリールを持ち込んでのもので、過度なアレンジや装飾など一切なく、アコーステックギターと彼女の歌…ただそれだけのもの。もちろん録音された70年代に、どこかのレーベルからこの「Colour Green」がリリースされたわけではなく、ただ彼女自身のプライベート録音として録音されたわけなので、よもや30年以上も経ってからこの作品がアシッドフォークの名盤と評価されるとは、本人はどう感じているのでしょうか?
憂いを帯びた歌声、簡素なギターの爪弾く響きとともに、淡々と自分を素直に吐き出す楽曲の数々。決して心が晴れるようなトーンではないのですが、とても親密で、聴けば聴くほど時の存在をも忘れてしまうくらい、Sibylle Baierの佇まいに魅了されてしまいます。
この作品を作ったのち、1974年に、ヴィム・ヴェンダースの「都会のアリス」に出演するもののその後は表立った活動をすることはありませんでした。そんな中、Sibylle Baierの息子のロビーが、ファミリーへの贈り物として、この「Colour Green」をCDにし、そのコピーをダイナソーJRのJマスシスに渡したことで、2006年に、ジョージア州アセンスにあるOrange Twinレーベル(ELF POWERのメンバーが運営)より、この作品がリリースされることとなるのです。
2008年には、ヴィム・ヴェンダースの映画「パレルモ・シューティング」に、”Let Us Know”を提供、この曲は実に35年ぶりに作られた新曲だったのですが、この曲も「Colour Green」に収録されていても気づかないかもしれないくらい、シンプルな弾き方で歌声も変わらずの素敵なナンバー。”Let Us Know”は、Sibylle Baierのオフィシャルサイトで聴くことができますのでこちらもぜひチェックしてみてください。