SjQ「Torus」(Leftbrain)
海外でも、長年いつ新作が出るんだろう?といった出る出る詐欺(言い方悪いか)なアーティストやグループが多いけれど、それは海外に限ったわけではなく日本でも同様、ファンをヤキモキさせたり、もう数年前から諦められたり、存在すら忘れられたりするアーティストは腐るほどいる。ある意味、まだ出ないの?と言われているうちが華なんだけど、それを長年、私の中でキープし続けているグループが、SjQなのである。
SjQのキャリアは、Samurai Jazz名義の頃からになると、もう20年以上もキャリアがあるグループで、ピアノ+プログラミングの魚住勇太を中心に、90年代後半より即興演奏と電子音響を密接に組み合わせた演奏を行なっていて…今に至る(端折りすぎか)でもその当時、特に意識もしてなかったけど、エレクトロニカムーブメントの流れのタイミングで、私がパステルレコーズをオープンし、奈良で音楽イベントを行いはじめたときに、SjQのメンバーと知り合うことになる。その頃は、かなりライヴも活発に行なっていて、既に、新作でも使われている、音楽制作ソフウェアト「ギズモ」による演奏も行っていたような気もするけど、最初の印象は、演奏よりもメンバーのシリアスでピリピリした印象だったのを覚えている。
新作が出たのにいうのもなんですが、彼らの音楽スタイルは、私が彼らのことを知った時から基本、そんなにぶれていないような気がする。Samurai Jazzという名前でスタートし、やがて、SjQとなり、紆余曲折を経たこの「Torus」を聴き込んだ後もその印象は変わらなかった。ただ明らかに、前作「Animacy」と比べて、新鮮な響きもある。もちろんメンバーが3人になったというところもある。けれど、メンバー間の関係性にある種、制約が生まれた中から、彼らが導き出した現在進行形が、本作に凝縮されているからだろう。
彼らはデビュー時から一貫して”インスタント・コンポーズ”を作品でもライヴでも実践してきている。フリーなんだけど、しっかり即興で音楽を創っているという感じ。制約のある自由ともいうべきかもしれないけど、彼らの音楽を聴いていると、制約というよりは、「ギズモ」含め、お互いを尊重し合う関係性の上に成り立っているグループなんだなと思う。それが本作でよりクリアに見えてきている。各メンバーが奏でる短いフレーズの断片がまるで、カットアップされるかのように、連なり、共振し複雑ながらも、クールな異次元のループに巻き込まれてゆく。これまでの畳み掛けるような、密度の高い疾走感ではなく、ピアノのノスタルジックなループを軸とした、音と音の隙間をすごく意識しているような演奏などは、これまでの作品にはなかったもので、個人的にはすごくグループのインテリジェンスを感じさせて、すごく好きだ。
おそらく初めて彼らの音楽に触れた人は、ずっと頭の中で?が付き纏いながら、聴くことになるだろうと思う。メタリックなギターが官能的に響き、どこが頭かわからなくなる変則的なリズム…そこにはバンドによる演奏をベースとした、カットアップが、ゆったりと連なってゆく。不思議なんだけど、それがとても心地よく聴けてしまう。もう私は、SjQの生み出す秩序ある混沌に入り込んでしまっているんだろう。是非多くの人に体感して欲しい作品です。
▼こちらもぜひ!
01. motsure
02. hotsure
03. bure
04. co/o (呼応)
05. shisen
06. tektek
07. “・”
08. yubi
09. soyogi
10. “/”
11. rad [special track]
美しいインスピレーションに導かれた、Alela DianeとRyan Francesconiによる共演作 「Cold Moon」 koji itoyama「I Know」(Hidden Vibes) Carlos Moscardini『Manos』 〜極上のひとときを約束してくれるブエノスアイレス在住のギタリスト/作曲家、カルロス・モスカルディーニの作品集が、ハンモックレーベルより。 Jacinta Clusellas「El Pájaro Azul」(RIP CURL RECORDINGS) Ólafur Arnalds & Nils Frahm「Life Story Love And Glory」~2台のピアノによるインプロビゼーション作