Solo Andata「In The Lens」〜ミニマルに奏で合う中から生まれる、たゆたうシンフォニー
オーストラリアのKane Ikinと、Paul FioccoによるデュオSolo Andataの4作目となる作品「In The Lens」が、Taylore Deupree率いる12kレーベルよりリリースされます。2006年に、Hefty Recordsからリリースされたデビュー作「Frys Swan」から10年という節目でもあるのですが、新作「In The Lens」は、その「Frys Swan」制作時の精神で作られたという作品です。
「Frys Swan」は、個人的にもよく聴き込んだ作品で、初期のサヴァス+サラヴァスを思わせるアコーステックギターと、ピアノ、キーボードのミニマルながらもそこはかとなく心に残るメランコリックな旋律をベースに、細やかに散りばめられた電子音や、ジャジーな要素も加えるサックスも含め、繊細かつ優美な、アコーステックの調べと、エレクトロニクスの響きがオーガニックに結びついた、今聴いても素晴らしい作品なのです。きっとこの作品で、Solo Andataを注目するようになった人も多いのでは?
その後、12kにレーベルを変えた流れまではものすごく期待値が上がったのですが、「Frys Swan」以降の作品は、よりダークでエクスペリメンタル寄りなアンビエント作に移行してしまっていて(結構2009年近辺の時期は、ダークでエクスペリメンタルな作風に移行するアーティストが多かったように思います。欧米では割と流行りだったのか?)、個人的にはまた「Frys Swan」のような作品を聴いてみたいなぁ〜という気持ちは残ったままだったのですが、デビューから10年を経て、本人たち、原点回帰なんでしょうか?「Frys Swan」が好きな人でしたら、きっと、「これこれ!」と待ちわびてたサウンドを「In The Lens」で聴けるのではないでしょうか。
数十年前も昔のハードディスクに残っていた録音や、もう使用していないアカウントのメールのスレッド、カセット音声レコーダーに録音していたサンプルなど、忘れていたり発見された音の破片たち…この作品の制作までの背景には、これら、まるでタイムカプセルを開けた時のような、幾つかの再発見がスタートとなっているよう。それら断片を用いながら、ジャズとフォークをエレクトロニクスを折衷した「Frys Swan」を彷彿とさせつつも全く違う、現在進行形の彼らの姿として仕上げられたものとなっている。
「In The Lens」は、過去をなぞった作品、というわけでもない、間違いなく彼らのポストプロダクションは成熟の域で、12kに移った時期にこんな風になるのかな?と期待していた、とても密度の高い、音響景観は、もはや彼らならではのものではないでしょうか。静寂に息づく軋みさえも、サウンドテクスチャーとして織り込まれ、それらミニマルに、またフリーキーに奏で合う中から生まれる、たゆたうシンフォニーは、より一層美しく、真夜中の静寂や、刺激的な心地よさ、それらの余韻を深く堪能することができます。