電子音響シーンにおいて、Taylor Deupreeは、もうかれこれ20年以上に渡ってキャリアを積み重ねてきている。坂本龍一や青葉市子、デビッド・シルヴィアン(ジャパンというグループをご存知の20代のひとはいるかな?)、ステファン・マシューなど数々のアーティストとも共演や作品をリリースしているのだけれど、フォトグラファー/グラフィックデザイナーとしての顔を持ち、デジタルミニマリズムに焦点をあてた音楽レーベル、12kも、セールスの難しいエレクトロニカ、ミニマル・ミュージック、アンビエントというジャンルの中にあって、常に高い人気を長年維持している。実際、とてもすごい人なんだけど、日本の音楽を始め文化にも興味を持ったり、日本人の作品をリリースしたり、また来日公演なども多く、個人的にはすごい以上に、どこか親しみある印象を持ってしまう。
彼の音楽を含めた表現については、『ミニマリズム』と言う言葉がよく用いられます。無駄を削って一つの興味に徹する。その作品の美しさは、例えば、顕微鏡で見るミクロの世界を初めて覗いた時に感じた美しさのようでもあるし、日常の風景とリンクする自然のざわめきのようでもある。コンピューターとアコースティックな楽器を組み合わせながら、チリやノイズを含め、一つのサウンドが響くことで、他のテクスチャーにどのような影響を与えるのか?と言う部分を踏まえ、とてもデリケートなサウンドを生み出している。ただ、ストイックなようでありながらも、ある種の不完全というか、隙間を作ることで、より聴く人の感情が移入することができ、ある一線からは、作品を聴き手に委ねているような姿勢も感じる。
そんな彼の作品はどれも素晴らしいものばかりですが、個人的には、2006年の「Northern」、そして2011年にリリースされた、MARCUS FISCHERとの共演作「in a place of such graceful shapes」以降にリリースされた作品は全て、無条件でおすすめしたい。彼のサウンドの一つ一つを拾い上げると、きっとこの世の不思議が聴こえてくるはず。
そして今回、12kではなく、久しぶりにspekkからリリースされた作品「Fallen」もTaylor Deupree作品のおすすめ作に加えたい1枚。軽い感じで作り上げるリラックスしたアルバムにしたかったと資料にはあり、”ソロピアノ作にしたかった”とも記されています。結果的にはソロピアノ作にはなっていないのですが、これまでのTaylor Deupreeらしい音のテクスチャーを、繊細なバランスのレイヤーで表現された部分と、よりTaylor Deupreeのパーソナルな部分にふれるような、ピアノのサウンドを包み込む、テープマシーンや無数のゴーストエコーによって生まれたサウンドスケープは、これまでの12kからの作品にはない誤解を恐れずいうと彼の胸の内を曖昧にさせるような佇まいが、より彼の人間味を浮かび上がらせているようにも聴こえる。それは不思議と、まるで、古いジャズや、子守唄を聴いているような感覚と同じように、私たちに暖かく寄り添ってくれる。心苦しく、はにかむ時も…。
<収録曲>
01. The Lost See
02. Paper Dawn
03. Unearth
04. Small Collisions
05. The Ephemerality of Chalk
06. Sill
07. For These In Winter
08. Duskt