The Unthanks『Diversions Vol. 4 – The Songs And Poems Of Molly Drake』
2011年、ふいに…というわけではなかったんでしょうが、26歳の若さで世を去った、英国フォークを代表するシンガーソングライター、ニック・ドレイクの母、モーリー・ドレイクによる、1950年代に自宅で録音された自作録音の作品「Molly Drake」がリリースされる。ニック・ドレイクの「ファミリー・ツリー」内で既に披露されていた、モーリー・ドレイクによる自作の曲を聴いた人なら、ニック・ドレイクのソングライティングのルーツは母親にあった、ということはもうお分かりだと思うのですが、アルバム単位でのリリースによって、ニック・ドレイクの母というイメージから完全に独立した、一人の才能あるシンガーソングライターとして多くの人の耳に触れたことはとても素晴らしいリリースだったと思います。
今回紹介する作品は、Rachel UnthankとBecky Unthank姉妹の歌とハーモニーを中心とした、UKのチェンバーフォークグループ、The Unthanksによる、モーリー・ドレイクのカバー作品。モーリー・ドレイクの娘、ガブリエル・ドレイク協力のもと、ガブリエル・ドレイクもポエトリーリーディングで参加しております。
The Unthanksは、これまでロバートワイアットやアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズなどのカヴァーもしていますが、静謐で、格調高いエレガンスな作品の割には、出している作品はどれもあまりピンとこないんですよね。歌もハーモニーも、そして上品な室内楽団を思わせる繊細で美しい演奏も、本当にレベルが高いんだけど、これが不思議なことにメジャー作品によくある、平凡で、クオリティーだけは高い作品のように聞こえてきて、どうもこの企画ものにも気が向かなかったんですが、このモーリー・ドレイクのカバー作は、すごくバンドと楽曲の相性が良くって、改めて、モーリー・ドレイクのソングライティングの素晴らしさを実感することができます。キュートさとちょっとハスキーな姉妹の歌声のコントラストも安定感ある素晴らしさで、伝統音楽を出発点としながらも、ジャズ、現代音楽、ポピュラーミュージックをも取り込んだバンドの演奏も含め、奏でるシンフォニーは、叙情的で、物悲しくもあたたかな魅力に包まれています。『Molly Drake』にも収録されている楽曲を始め、録音されなかった楽曲も収められています。