The Green Kingdom「The North Wind and the Sun」(Lost Tribe Sound)
秋〜冬のサウンドトラックにもオススメ!美しくも優しい牧歌的なサウンドに仕上げたキャリア最高作!
デトロイト出身のMichael Cottoneこと、The Green Kingdomは、私のお気に入りの音楽家の一人である。2007年に、フランスの12kと紹介されていたこともある、SEM Labelからデビュー作「The Green Kingdom」をリリースして以来、10年にわたりほぼ毎年、何らかの形で、コンスタントに良質な作品をリリースしています。ダブからドローンまで、幅広い種類の電子スタイルを試しながらも、The Green Kingdomの最大の魅力的要素である、アコーステック(エレクトリック)ギターを用い、情景を描き出す瞬間の、何とも言えない心模様が現れた調べが魅力的で、これまで、少しづつ作風に変化があっても、彼のイデオロギーと描きあげる美しさにはまったくブレがないところが、着実に10年にわたって魅力ある作品をリリースし続けることができている要因でもあると思う。
さて、昨年(2016年)ロシアのアンビエント・レーベル、DRONARIVMよりリリースされた、「Harbor」に続く、イソップ寓話のひとつ「北風と太陽」を作品名とした「The North Wind and the Sun」について…の前に、前作「Harbor」で、これまでどこか奥底に潜んでいた、Michael Cottoneの嗜好性が全面に出てきた流れがありました。Manual、hammmock、Cocteau Twinsやそのギタリスト、Robin Guthrieを思わせる、シューゲイズなムードに包まれたサウンドと、これまで以上にアナログな演奏主体によるサウンドは、近年、アンビエントな音楽を作る音楽家に共通する、音楽ソフトだけに頼らない、人の手による演奏を軸としたものでした。それは、彼の最大の強みである、ぬくもりあるメロディを通じて、日々の中で感じ取った、心の中に流れる風景を、描き取とるにふさわしい響を得るのに、必要以上にグリッジやノイズなど意図的に作られるエレクトリックな手法はもうふさわしくないとも、聞き取ることができます(もちろんラップトップを完全否定しているわけではないのですが)。
今作「The North Wind and the Sun」もこの流れは引き継がれていますが、よりアコーステックで、土着的な質感は、リリース先のレーベル、Lost Tribe Soundの作品群に近く、レーベル資料の中でも、William Ryan Fritch、Western Skies MotelやPart Timerといった、Lost Tribe Soundからリリースされているアーティストを始め、John Fahey、ボード・オブ・カナダ、Amiina、ムビラ奏者である、Richard Crandellといった名前も引き合いに出されていて、アメリカーナや、北欧作品特有の、幻想的で浮遊感ある、牧歌的な佇まいを持った本作を聴くと、なるほど、オーガニックでジェントルな、トレンドに囚われない探究心ある作品をリリースする、Lost Tribe Soundの趣旨とも共通する、輪郭、質感がよく伝わってきます。また、彼のパーソナリティー含め、サウンドの背景がより重厚で綿密でありながらも、これまでの積み重ねがあったからこそ生まれるシンプルで素直な描写が、穏やかに心に響いてくる。そして、「The North Wind and the Sun」は、The Green Kingdomのキャリアを通じて本当に美しい、一番の作品ではないか…と、自分の中では思ってます。
もともと、この作品は、カセットでリリースされる予定だったそうです。だけど、音源を手渡されたレーベル側が、こんな美しく素晴らしい作品は、カセットではなく、ヴァイナルでリリースすることが、作品の素晴らしさを讃えることになる…ということでヴァイナルのみのリリースに至った経緯も何かLost Tribe Soundを主宰するライアンさんの信念が伺えてとても好きだな〜。ということで、本作は、The Green Kingdom最高傑作であり、最も高価な作品となってしまったわけです。レコード屋としては、デジタル音源ではなく、レコードを買ってほしいところもあるのですが、なんせ、めちゃくちゃ高価(卸で3000円を超えてるんで)なので、あえて、無理して買わなくても、レーベルサイトよりデジタル音源購入してください。一応、当店でもレコード販売してますが、ほぼほぼ売れないだろうなぁ。
<収録曲>
A1. Signs And Wonders
A2. The Singing River
A3. Rusted Relic I
A4. Virescent
A5. Unnamed Lands
A6. Aventurine
A7. The Beacon Tree
B1. Rusted Relic II
B2. Silt
B3. From The Ashes Of Industry
B4. Ramshacklet
B5. Rusted Relic III
B6. Children of Light
The Green Kingdom – Rusted Relic III (Official Music Video) Edit from Lost Tribe Sound on Vimeo.