William Ryan Fritch「Revisionist」(Lost Tribe Sound)〜息をのむほどに奥深い音世界
本当は、昨年に紹介したかった、米国オークランドで映画音楽の作曲家/マルチ・インストゥルメンタル奏者William Ryan Fritchの最新作「Revisionist」に、2014年作の、「Emptied Animal」、「Leave Me Like You Found Me」が入荷しました。
William Ryan Fritchは、ピアノ作「Dampener」のリリース時にもご紹介しましたが、Asthmatic Kittyから、”Library Catalog Music Series”で、「Music for Honey and Bile」という作品をリリースしたり、ANTICONからリリースしているラッパー、Soleとのバンド、Sole And The Skyrider Bandや、Vieo Abiungo、そしてVolcano Choirや、Pele〜Collections Of Colonies Of BeesのドラマーJon Muellerとのプロジェクト、Death Bluesしても作品を出しています。ただ、このサイトをご覧いただいている方は、是非とも、彼のソロ名義でのオリジナルアルバムを、まず聴いてほしいです。
特にここ数年のリリースペースが凄くて、2014年のEP「Emptied Animal」(ボーナストラック4曲がダウンロードできるクーポン付)以降、その後すぐにリリースされた「Leave Me Like You Found Me」(14曲入EP”Her Warmth”のダウンロードクーポン付)や、2015年の「Revisionist」と怒涛の勢いで続いた作品リリース(間にEPも含む)の流れは、ブラジル人ヴィジュアルアーティスト、João Ruasによるアートワークが多く使われた、”Leave Me Sessions”シリーズとして、位置付けられています。
映画のサウンドトラックを数多く手がけていますが、ストリンクスアレンジを含めた、壮大な世界観を生み出す、ゾクゾクするオーケストレーションは、ソロ作で、さらに破綻と秩序が混在したかのような、圧巻の一言。また、ポストクラシカルだけでなく、サイケデリック・ロック、フォーキーで、ルーツに根ざしたアメリカーナな持ち味もあり、そんな中での、多重録音でのコーラスワークやプリペアードピアノのような、細工された手法で生み出されるサウンドメイキングなどなど、こんなやり方で生み出しているのか〜と言った種明しみたいな、映像も公開されているのですが、それが、実に様々な音楽ジャンルの引き出しを持つWilliam Ryan Fritchの個性となって効果的にサウンドに生かされている。この屈折した中にも絶妙なバランス感覚とともに、静寂でホロっと感動させる瞬間もあるのが憎いところ。どことなく、フレーミング・リップスなんかを思わせるところもあるかなぁ。
William Ryan Fritch – Behind The Scenes Part I (The Leave Me Sessions) from Lost Tribe Sound on Vimeo.
William Ryan Fritch – Behind The Scenes Part II (The Leave Me Sessions) from Lost Tribe Sound on Vimeo.
またその一方で、Fritch自身のシンガーソングライターとしての力量も素晴らしく、「Revisionist」では、彼の歌唱が、マジカルなサウンドと溶け合い、同時に、William Ryan Fritchのナイーヴさを浮き彫りにしながらも、幻想と感情の広がりを描き上げ、内省的な叙情を歌い上げる。それはまるで着地点のないような、表情豊かなサイケデリックなサウンドの中にあっても、優しく暖かで、心強い感触を覚えるのです。おそらく、聴く人によっては、ニルス・フラームや、ピーターブロデリック以上の才能を感じていただけるのではないでしょうか?
全編ほぼWilliam Ryan Fritchによる演奏なんですが、「Revisionist」には、Benoit Pioulard, D.M. Stith, Origamibiro そして、ラスト曲を感動的なまでに歌いあげるEsme Pattersonが参加。何度も言うようですが「Revisionist」だけでなく、どの作品もハズれはないので、「Emptied Animal」、「Leave Me Like You Found Me」もぜひ聴いてみてください。