Zinovia Arvanitidi『Ivory』(KITCHEN. LABEL)
深い内面を映し出し、ためらいにも似た彷徨いを映し出すモダンクラシカル作。
ギリシャ出身、ジノヴィア・アルヴァニティディのファースト作『Ivory』(Zinovia名義を含めるとソロ2作目)が、シンガポールのKITCHEN.LABELよりリリースされました。Mü-Nest、7k!からソロ作をリリースしている、同じギリシャ出身の、ヒオールクロニックとのデュオ、Pill-Ohとしても、1枚作品を出してますが、ソロ作の方が、ジャケットの印象と結びついた、ノスタルジックな感情が優雅に連なるモダンクラシカル作となっています。
8歳より、ピアノのレッスンを受け、きちんと音楽理論と声楽を学んでいるひとで、音楽院を卒業後、セッションミュージシャンとして、ピアノやボーカルで様々な作品に参加しています。またスタジオのサウンドエンジニアの分野でも活動を広げ、テレビシリーズや映画の作曲、演劇、短編映画、長編アニメーションのための音楽も手がけています。作品自体は決して多くはなく、Hior Chronikの作品「Unspoken Words」に参加した流れで、Pill-Oh「Vanishing Mirror」につながるわけですが、その後、2013年に、Zinovia名義で、シカゴのTympanik Audioより、「The Gift Of Affliction」をリリースします。実質ソロデビュー作となるこの作品は、IDMの流れを汲んだ、エレクトリックなビートに、エレガントなピアノと神秘的なハーモニー、エキゾチックなムードを醸し出す交響曲とがバランスよく配置された、常に高いレベルの作品なのですが、いかんせん、レーベルイメージが反映された、個人的にはあまり好みではないジャケットイメージやインダストリアルなムードも正直、残念に感じるところではあるのですが。
そして、5年後の、2018年に、Zinovia Arvanitidi名義で、Pill-Ohと同じ、KITCHEN.LABELから『Ivory』をリリースします。まずは、フランス人写真家 Aëla Labbéによる”aphrodite returning to sea”と題された、7インチレコードサイズの、ジャケットアートワークに目を奪われてしまいます。まるで現代のギリシャのとある海岸に突然タイムスリップしたような、ギリシア神話に登場する「美の女神」アフロディーテ、といった雰囲気と、どこか戸惑いある佇まい。
アルバムインナーには、フランスの小説家、劇作家、哲学者である、アルベール・カミュの言葉である ”There is a life and there is a death, and there are beauty and melancholy between”が記されている。ピアノが静かに響くタイトル曲にもなっている”Ivory”を聴きながら、ぼんやりと、夢想と現実の間で、ためらいにも似た彷徨いを映し出しているような、彼女のピアノにしばらく聴き入ってしまう。
優雅と憂鬱さ、それに対する感受性を特徴とする彼女の作品は、『Ivory』での、一切のエレクトリックを排することによって、神秘的なハーモニーとともに、サティやショパンなどのクラシック・ピアノ作品にルーツ持つ彼女のピアノがよりクローズアップされ、想像力豊か且つ、愁いを帯びたその旋律は、彼女の深い内面を映し出すものとなっているものの、押し付けがましくはなく、静かで、瞑想的な心地よさに心惹かれてしまいます。
▪収録曲 :
01. Ivory
02. Essence
03. Inattendu
04. Fluttering
05. Invisible
06. Parting Ways
07. Duende
08. Afterlight
09. Ebony
10. Time